櫻

朱花(はねづ)の月の櫻のレビュー・感想・評価

朱花(はねづ)の月(2011年製作の映画)
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愛おしい、あの人が愛おしい。そう、恋というのは、このくらい重いものだったよ。そして人を狂わせる。会いたいのに会えないことをひとり哀しみ、肉体よりも魂をふかく想う。それ自体が自分ではどうにもできない事象なのに、また新たに壁をつくってしまう。言葉に綴ったのは昔のことだけど、ごうごうと風にのって込められた息吹はきっとそのまま。叶わないことの方が一等うつくしく響いてしまうのが、ただ切ない。

命の継承。この一枚の肌の下には、血液という普遍が流れている。日に透かせば密やかに細く青いが、一枚貫くとどうだろう。包んでも血が滲んでくる、隠してもその赤は顔を出す。日常はかすかな風によって変動し、豪雨の中に理不尽に立たされもする。光と闇は隣り合わせなのは太古から。生きものとしての女と男は、待ち合わせ場所で常にすれ違い、こうして現在まで傷つきながら、ともに歩いてきたではないか。
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