たのしい娯楽活劇であり、その底の底には世界を揺るがさんとする瞬間的な狂気が垣間見える。しかし世界は思ったより強いし、無情。
スタージェスのシカケとクローデット・コルベールの魅力に嬉々とひっぱりまわされる、なんて精彩な速度だ。久しくただひたすら映画に尽くした休日をスクリューボールで笑って仕舞おうと思ったが、誰にも模倣できない>>続きを読む
忘れているということは、それが忘れたほうが幸福な思い出であるはずなのに、美化されたその瞬間に焦がれて忘却の国をさまよう幻想の囚人。今とこれから先への失望よりは、それが苦悩とどこかで知りながらも探究する>>続きを読む
「狩りと女」という共通する嗜好をもつ男たちが、ゆえにくだらない過ちから重大な罪を犯し、それを隠蔽し、今度は死んだ夫の指輪をはめた復讐の花嫁ジャンヌ・モローに手際よく狩られていく。ジャンヌ・モローという>>続きを読む
『第三の男』しかみたことのなかったキャロル・リード、大戦中にもおもしろいスパイ映画を撮っていた。ナチに拘束されたチェコの科学者とその娘を、ドイツ将校に扮した英国諜報部員が救出する、という王道の筋書き。>>続きを読む
この手の作品に敷かれたレールをスピーディに先回りして微妙にズラしていくので先が読めずおもしろい。転てつ器はもちろん暴力、殺人、銃撃、そして音楽だった。彼が"誰でもない”ように、あまりにも退屈な毎日を送>>続きを読む
噂に違わぬ傑作だった。安兵衛の荒々しくみだりな酩酊は、厳格で愛情深い叔父の涙、そして八丁堀から高田馬場へ急ぐ韋駄天走りの実にリズミカルなモンタージュによって、まるで祭りのような大乱闘への愉快な拍車とな>>続きを読む
今年こそはマキノ雅弘をみようと思って、まずは現状すぐにみることのできるなかでの古い作品から。コミカルで快い寓話とはいえ、志村喬演じる日傘屋の、眩い光と模様に満たされた果樹園のような部屋や庭先の不思議な>>続きを読む
鉄腕というより、舞い、刺す!のダンシング・ジムだったが…今年最後の映画鑑賞にふさわしいウォルシュの快作。とつぜんシェイクスピアの役者に憧れる飄々とした"アイルランド男”が主人公のボクシング映画はほかに>>続きを読む
どれだけのテクノロジーを用いて革新的な映像を生みだしても、お決まりの位置からみたいものを撮ってくれるジェームズ・キャメロンの我慢強さ、その安心感よ。たとえば海洋の不思議な形をした獰猛生物との攻防も、あ>>続きを読む
シンプルにうまい!おもしろい!タチの『トラフィック』みたいな文明批評性。
トリュフォーの現代恋愛劇をみているのかと錯覚するほどだったが、もっとあたたかくコミカルで何度もクスっとした。トリュフォーは「起きて寝る結婚の周期性」を否定し、家庭のベッドを恋愛の墓場に喩えたが、だから>>続きを読む
『健康でさえあれば』の冒頭に併映されたもうひとつの独立短編『絶好調』。失敗だらけの小気味いいソロキャンプから有刺鉄線に囲まれた収容所のような世界へ突如放り込まれるというなんとも言えぬ謎の不穏さを残す。
再編集版での初公開。4つのパートからなる短編集のようなものだが、登場人物が微妙に繋がっている節もある。共同脚本はあのカリエールだ。その名と奇想のつながりで『自由の幻想(1974)』を彷彿させるも、エテ>>続きを読む
あざやかでほほえましいパントマイムとギャグだった。サーカスやクラウンが好きで好きでしょうがないおじさんの郷愁をそのまま覗き込んでいるような夢心地。師匠であるタチ譲りの効果音、チャップリン、キートンへの>>続きを読む
コロナ禍が覆った東京の寒空の下、どうにも遣る瀬無い話だが、ふしぎと澄んだ気持ちで劇場をでることができた。語られない無数の物語を限られた時間と画面のなかへ濃密に描きだすのは、冷酷なまでに静謐な生のリズム>>続きを読む
熱い!息急き切って肉迫する生きた運動が結末の記憶と呼吸を置き去りにしてくれた。音が還ると青春も戻ってくる。
このレビューはネタバレを含みます
うまい。殺人と殺人未遂、陰謀、恐喝といった物騒な犯罪が重なって起こるジョーン・ベネットの呪われた部屋に鏡面が多く、虚実混じり合うこの物語にふさわしい空間になっている。すべては初老の疲れた犯罪心理学者E>>続きを読む
タバコ映画。刹那的な通過点だってけっして無感情ではないということ。ネオンの照射が刺さるのもそういうことだ。ただ、『恋する惑星』のほうがよかったな。
突如襲う過剰な暴力にはじまり、俗世のつめたさ、世の無情を淡々と受動的に描いているのにあたたかい。脈絡のない無国籍的な表現の均衡が、歌とやさしさ、おぼろげな希望によってささえられている。ここが人間の居場>>続きを読む
リベラルと保守の両極が正面から衝突するわけでもない。中間にひろがるさまざまな価値観にふれ、その本質を見てゆっくりと時代が変わっていく初動を、快活な喜八節でたのしむことができた。初期作からキレッキレであ>>続きを読む
徹底した崖下の事件への俯瞰にはじまり、ヒロインのヴィエナがそこに立ち階下を見おろす賭博場の階段につづき、人が人形のようにころげ落ちていく岩山の急斜面にいたるまでの異様な高低差は、たしかに物語よりも多弁>>続きを読む
これこそアメリカンニューシネマの先駆けであり、ヒッチコックでありゴダールだ。可能な限りフレームの中で、強迫性らしき拳銃への執着も転落もスリリングに語ってしまう。最後まで犯罪を否定しつづけるジョン・ドー>>続きを読む
こんなところで何してんだろう、もう帰らなくちゃいけないと焦りながらも、そのけむたい場所からどうも動く気になれないのは、なんの前触れもなく急激に接近する距離と速度の異変に、停滞からの爆発的な脱出の可能性>>続きを読む
映画における扉の魔力と正面から向き合うラオール・ウォルシュ。ファムファタルを演じるアイダ・ルピノ、暗殺決意からのセンサーの伏線回収、背後で自動扉がしまり殺人完了するショットが完璧だった。居眠り運転のタ>>続きを読む
映像の裏切りに誘われる濡れた美しい感情。たとえばヴィセンテとクララの瑞々しい接吻がついに結ばれるそのとき、とつぜん暗闇が襲い、次の雪降る夜空のショットで画面下の見えない階段からピョコっと上がってくるの>>続きを読む
しかるべき人が語ろうと思えばどこまでも語れるのであろう膨大な知識と意味と映画史が込められた映像が、ちゃんと劇物語として成り立っている。その代わりに、まったくもって咀嚼が追いつかないほどのめまぐるしいス>>続きを読む
おもしろい。冒頭から足と影と車のショットをトントン繋いで、ヒッチハイクから殺人までをわずか1分弱で完了する映像の省略、鮮やかだった。
後部座席の影からヌっと照らされてあらわになるウィリアム・タルマン>>続きを読む
10年近く屋敷にこもって愉快なおじいちゃん学者たちと百科事典を編纂する童貞教授ゲイリー・クーパーが、俗語を学ぶために世へでて、ギャングの愛人に恋をする。脚本にビリー・ワイルダーの名があるのが納得のスト>>続きを読む
一見デタラメにも見える無邪気なシークエンスのなかでふいにドキっとするような瞬間が放たれ心に乱反射する。特に後半のコルシカ島の旅は言いつくしがたく、永遠にみずみずしい不思議な生命力を感じた。
どこかボ>>続きを読む
民族意識的なレベルでの集団の捉えがたい動きをここまでサスペンスフルにおもしろく構成できるんだと、純粋に驚いている。天才的にうまい。印象深いカットをあげていくとキリがない、ほぼすべてと言っていい。
ロードムービー。コーヒー、煙草、カメラ、モノクロームの相性がいい。
語らずとも伝わる四人の関係のそこはかとない変化から、子ども三人がいたずらっぽい目で見守る中での劇的な男の決断ショットがよかった。カ>>続きを読む
めちゃよかった、躍るような夏の陽の光も即興の演者だ。あんなにも多幸感で溢れていたのに、もう二度とそこにもどれないカラオケの喧騒で涙がこみあげてきた。あの一夜をひとり逃してしまったフェリックスが幻想的な>>続きを読む
審判ど突いて退場になったゴールキーパーの犯罪と彷徨。男の実存的な不安、幼稚性、衝動と周囲の世界。不条理な流れのなかで子どもへのある種の共感やぼんやりとした主観が描かれているのが良い。ヴェンダース映画と>>続きを読む