あろはさんの映画レビュー・感想・評価 - 4ページ目

あろは

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ペパーミント・キャンディー(1999年製作の映画)

4.2

この男が見た走馬灯を追体験する。

逆回転フィルムで人生のレールを逆走する。20年に及ぶすべてのエピソードに映り込む列車は、乗り合わせた運命というメタファーか。男が"帰りたい"と叫んだあの時まで、記憶
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テイク・ディス・ワルツ(2011年製作の映画)

3.8

またしても幸せになれない女を演じる、ミシェル・ウィリアムズ。

私生活でもヒース・レジャーと婚約しながらも、結局破棄となり、後に不慮の事故で彼は旅立ってしまう。本作でも、すべてに息の合うワルツのパート
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物語る私たち(2012年製作の映画)

3.8

家族の中で、自分だけ顔が似ていないのはなぜか。

ドキュメンタリー版「秘密と嘘」かのように、秘められた家族の嘘。女優であり、映画監督でもあるサラ・ポートリーが、亡き母の「秘密と嘘」を求めて、父親、兄弟
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ウィッカーマン(1973年製作の映画)

4.0

ある少女の失踪事件が島に誘う。

ミステリー映画のようなオープニングで、警官と同時に、観る側もサマーアイル島に誘われ、島民全員が容疑者であり共犯者でもある状況下で、生贄という儀式に向けてストーリーは進
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アダプテーション(2002年製作の映画)

3.8

行き詰まるとマスタベする脚本家。

カウフマン自身の心と欲を表現した、双子の脚本家という秀逸なアダプテーションで、蘭コレクターが題材という退屈な原作は、映画としてにわかに花が咲き始める。

人気要素を
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聖なる証(2022年製作の映画)

3.8

4ヶ月何も食べずに生き延びる少女。

撮影スタジオを移動するカメラワークで、舞台裏を見せながら本編に流れ込む。そんなトリッキーな演出から始まる物語は、奇跡か虚偽か、信仰か科学か、その真実を暴こうと奮闘
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親切なクムジャさん(2005年製作の映画)

3.8

素人を血みどろの現場に巻き込む、親切過ぎるクムジャさん。

赤いアイシャドウは、親切なクムジャさんから、復讐する女クムジャにキャラ変するトリガーだ。主演のイ・ヨンエ、多彩な色味の赤、クラシック音楽の調
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バルド、偽りの記録と一握りの真実(2022年製作の映画)

3.5

出たり入ったりする赤子の命は、亡き息子の生きた証。

これは完璧に練り上げられたシナリオのある物語ではなく、断片的に投げ込まれたイニャリトゥ監督の記憶や幻想。それは私事のみならず、母国メキシコと20年
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ラストタンゴ・イン・パリ(1972年製作の映画)

3.2

本作でも私生活でも妻がいなくなるマーロン・ブランド。

フランシス・ベーコンの絵画で始まる、無宗教主義宣言とでも言わんばかりのオープニング。それは、例のシーンでの諸々の疑惑含めた反モラル性であり、そし
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ラストエンペラー(1987年製作の映画)

4.0

満洲国に担ぎ上げられた悲運の皇帝。

耽美的な雰囲気を感じさせる、ラストエンペラーという言葉の響きと、ベルトルッチの光と影を巧みに操る映像美。ファシズムも共産主義も台頭した時代に飲み込まれた溥儀もまた
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ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ(2019年製作の映画)

3.5

例えば、ハワイの広大な土地を買い占めたザッカーバーグ。

これはサンフランシスコの黒人コミュニティだけの話ではなく、世界中の大都市で起きている。この格差社会では、超富裕層に資本力で居場所さえも奪われる
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オールド・ボーイ(2003年製作の映画)

4.0

ギリシャ悲劇を取り込んだ復讐劇。

15年間監禁された"オ・デス"は、前半で監禁した犯人を探し、後半で監禁された理由を探すが、その核心はあたかも"オイディプス王"のような様相を呈し、真実を探れば探るほ
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ホワイト・ノイズ(2022年製作の映画)

3.5

ノア・バームバックは低予算の方がいい。

せっかくのアダム・ドライバーとグレタ・ガーウィグ主演というワクワクするキャスティングなのに、予算が多すぎたせいか、ストーリーの軸が余計な枝葉に吸い取られて細く
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オアシス(2002年製作の映画)

4.8

純粋さを試されるのは、観る側の心。

何度観ても驚かされるムン・ソリの表情や手の仕草、そして足先の硬直まで、本当に障害があるとしか思えないが、閉じ込められた彼女の願望が解き放たれる刹那、これは演技なん
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もう終わりにしよう。(2020年製作の映画)

3.8

ジェシー・プレモンス版「脳内ニューヨーク」

初見で立てた仮説を、二度見の最初30分をかけて検証することになる、やはり難易度高めのカウフマン作品。脳内で繰り広げられる老ジェイクの妄想には、理想と現実、
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復讐者に憐れみを(2002年製作の映画)

4.2

愛情から始まった復讐のバタフライエフェクト。

資本主義と復讐の構造はどこか似ていて、資本も憎しみも、結局は誰かから搾取し、誰かに搾取されることで成り立っている。

これは復讐の連鎖ではなく、復讐の階
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脳内ニューヨーク(2008年製作の映画)

4.8

続けて2回観ても難解な、重厚で濃厚な哲学作品。

テーマは老いや死だけじゃなく人生そのものであり、その点ではブッツァーティの小説「タタール人の砂漠」に近いものを感じるが、本番を迎えることなく、永遠に繰
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地獄に堕ちた勇者ども(1969年製作の映画)

3.8

ヴィスコンティ版"華麗なる一族"

がしかし、財閥の権力争いと凋落を、一企業の側面から描くだけでない。ヒトラーが政権を握っていく、ナチス・ドイツという大きな社会のうねりを捉えることで、よりダイナミック
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お嬢さん(2016年製作の映画)

3.8

愛とエロスで騙し合う男と女。

フランス映画のように官能的で濃厚なシーンだけでなく、放送禁止用語も連発しちゃう変態系エロティカであり、3部構成で丁寧に伏線回収して魅せる、極上のサスペンスでもある。
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昼顔(1967年製作の映画)

3.8

1967年に描くフェミニズム。

夫では満たされない人妻の性的欲求という、まるでFANZAにありそうなテーマだが、ドヌーヴ主演の映画となると、作品の重力は全く違うものになり、妄想による深層心理や、二重
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小さな悪の華(1970年製作の映画)

3.8

悪魔に魂を売った無邪気な少女たち。

実際にニュージーランドで起きた事件に影響を受けた本作。大人と子供の間でもがく14,5歳の少女の危うさを、子供らしい残酷さを孕みながら耽美的に描いていく。危険な悪戯
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第七の封印(1956年製作の映画)

4.2

死を賭けた"死神"とのチェス対決。

疫病が蔓延し、死神を見る者もいれば、聖母マリアを見る者もいる終末世界。愛を厄介な疫病に、死にゆく娘の目に神なき虚無を見る従者ヨンスは、ベルイマン自身の分身か。
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野いちご(1957年製作の映画)

3.8

甘酸っぱい"野いちご"と過去の記憶。

夢と現実、過去と現在、そして孤独と後悔。人生を回顧するロードムービーは、老教授イーサクにベルイマン自身を投影しているのだろう。家族、老い、死といった、逃れられな
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家族の肖像(1974年製作の映画)

4.0

ヴィスコンティ的"遠くの親戚より近くの他人"

バート・ランカスター演じる教授は、ヴィスコンティ自身の分身であり、登場するのは美しかった母親、離婚した妻、作れなかった家族。そこにファシズムや左翼思想と
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カメレオンマン(1983年製作の映画)

3.8

他人と同化する人間カメレオン。

主人公の名前「Zelig」を様々なフォントで、多重人格を表現したパッケージが印象的。ユダヤ系であるウッディ・アレン自身が、自己防衛するために取ったであろう生存戦略を、
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テナント/恐怖を借りた男(1976年製作の映画)

4.0

シャロン・テート似の女装ポランスキー。

それ以外にも、彼女出演の映画を監修したブルース・リーや、何度も映し出される3人組のポスターなどなど、彼女や事件を連想させるものが散りばめられ、疑心暗鬼に陥る。
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スローターハウス5(1972年製作の映画)

4.0

時間から解放された男の人生。

過去、現在、未来という時間軸が、同時に存在する宇宙人は「メッセージ」でも取り扱われた概念だが、その先駆的作品である本作は、より時間軸がランダムに映像化され、特に戦争とい
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オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分(2013年製作の映画)

4.2

浮気相手の妊娠が奥さんにバレて激ギレされる86分間。

ハイウェイを走る車内での薄暗い会話と、背景に流れる眩い光のコントラストに、1つでもミスを犯そうものなら、仕事も家庭もすべてが崩壊する危うい状況の
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抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-(1956年製作の映画)

4.0

成功前提でもスリリングな脱出劇。

積み重ねられていくプロセスのディテールは、慎重に慎重を期す主人公の心理状態の描写のようでもあり、そこに実行を迫る時限装置を組み込むことで、より緊張感を高めていく。
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スリ(掏摸)(1959年製作の映画)

3.5

スリが引き寄せた男と女。

スリで得るのは物質的な富だけでなく、興奮を伴った高揚感もあるはずで、そのスリリングな駆け引きや手慣れたテクニックは、どこか恋愛にも似た、構造的アナロジーを感じさせる。

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アナイアレイション -全滅領域-(2017年製作の映画)

3.8

エクス・マキナとは別角度からの警告。

放射能汚染なのか、遺伝子操作なのか、現在の常識ではありえない生態系が形成される"全滅領域"。そこでは模倣という創造による、新世界が始まろうとしていた。

自己破
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地球爆破作戦(1970年製作の映画)

4.0

なぜ米ソ首脳は戦争を放棄しないのか。

アナログ感満載のビジュアルをした、2台のスーパー・コンピューターは、手を組み最強AIとして動き出す。それは、世界平和には不要な存在である人類を排除し、コントロー
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スターシップ・トゥルーパーズ(1997年製作の映画)

4.0

巨大昆虫なら虐殺してもいい世界。

ナチス・ドイツのプロパガンダ映画を連想させる作風で、全体主義国家を風刺するSFコメディ。正義という大義名分の下に、地球連邦軍は巨大昆虫の惑星を侵略し、殺戮を繰り返し
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ファニーとアレクサンデル(1982年製作の映画)

4.5

何度でも観たい5時間超えのベルイマン劇場。

ファニーとアレクサンデル、2人の兄妹から見たエクダール家の喜怒哀楽、栄枯盛衰、家族団欒、そしてたまに一家離散。それは人生の痛みを描くベルイマン監督の自叙伝
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1900年(1976年製作の映画)

4.2

デモ行進する労働者"第四階級"が物語る。

黒襟のファシズムと、赤旗の社会主義という対立構造。幼馴染み2人を中心に据えることで、成長の時系列をストーリーに取り込み、空中戦になりがちな政治思想の対立を、
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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(2016年製作の映画)

4.0

Googleでもアーカイブできない知の殿堂。

書庫から教育施設へ。本ではなく人が主役。そんな思想を持つニューヨーク公共図書館は、あらゆる人種や社会的弱者を切り捨てない。それを裏側で支え、予算確保と最
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