中島晋作さんの映画レビュー・感想・評価 - 11ページ目

月光の囁き(1999年製作の映画)

4.9

犬になる瞬間のロングショット。自分さえよければいいと、他人の気持ちを踏みにじる。人としての倫理が欠落しているから、人間を辞めて犬になる。
鍵穴に鍵を差し込む。二人が眼帯を着けることで、同じ種類の非-人
>>続きを読む

トカレフ(1994年製作の映画)

4.0

検見川団地(千葉)の中の日常性と殺伐とした暴力。少し『童夢』。暴力は郊外から田舎へと延長していく。子供の死体がゴミ袋に入っている。渋谷、スクランブル交差点での現金受け渡し。
千葉の風景が死んでる。不毛
>>続きを読む

死んでもいい(1992年製作の映画)

3.6

部屋の中にいても雨に濡れる。赤い傘と豪雨の組み合わせがやや古く感じられる。地震の揺れが鈍い。

アウトサイダー(1981年製作の映画)

4.5

音楽が鳴り響く空間で別れを告げられる。社会に適応できないクズは、基本的に死ぬまでクズである。若くして死ぬと、未来の苦痛や災難を免れることになる。それはすなわち幸福なのだという。

麻希のいる世界(2022年製作の映画)

3.0

塩田明彦だから面白いが、戸惑う場面が多い。女性(少女)の演出はいいのに男性の演出がまったく雑に感じられるのが微妙な気分になる。というより、なんでこんなヘンテコな脚本になってしまうのか。ブレッソン的な終>>続きを読む

ダムネーション 天罰(1988年製作の映画)

5.0

部屋の中から窓の外を見るとリフトが回っている。滑車がぐるぐると回転して軋む音。ダンスでも輪になって回る。同じことの繰り返し、抜け出すことのできない「恐るべき連続性」。努力は無意味。人生は暗い。何もかも>>続きを読む

ブラックボックス:音声分析捜査(2021年製作の映画)

2.7

回り込みや音の演出などが安易。SONY製ノイズキャンセリング・イヤホンのプロモーション・ビデオを見せられているよう。主人公の几帳面さを、ペンの位置を微調整するしぐさで表すのだけはよい。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(2021年製作の映画)

4.2

映画的高揚が頂点に達するであろうシークエンスがアニメーションだったことが残念である。
でもよかった。おしゃれ映画にみえて実はまったくおしゃれとは程遠い死と暴力、陰鬱を抱えているのは今作でも変わっておら
>>続きを読む

梁山伯と祝英台(1963年製作の映画)

3.7

学問を修めるために男装する。化粧より筆を望み、宝石より書物を愛する女性。ショウ・ブラザーズによる贅沢なセット。2匹の鯉、2羽の蝶。円谷英二が新東宝スタジオで撮ったといわれる破壊的特撮によって恋人同士が>>続きを読む

北京オペラブルース(1986年製作の映画)

5.0

大げさな演技、漫画のようなキャラクター。『覇王別姫』の高尚とは対照的に、まったく低俗な映画である。京劇(文化)対警察(権力)。女性たちが連帯した瞬間に雪が降る。86年。ホークスやルビッチを感じるシーン>>続きを読む

英雄本色(1967年製作の映画)

3.1

パトリック・ツェーの、どんなに汚れた役でも育ちの良さというか、品の良さが滲み出ているあたり、ニコラス・ツェーにも受け継がれている気がする。
女性、前科者、労働者、社会の周縁を際立たせる。この点をジョン
>>続きを読む

黄飛鴻正伝 鞭風滅燭の巻(1949年製作の映画)

4.3

ウォン・フェイホンが香港における連続活劇を象徴するキャラクターであることや、武侠映画のオリジンを窺い知ることができただけでも貴重な体験であった。勧善懲悪、単純明快。
娼楼に生きる女性たちの人生がいかに
>>続きを読む

ライダーズ・オブ・ジャスティス(2020年製作の映画)

1.9

部屋の中で叫びながら怒りに身を任せて物を破壊する、あのステレオタイプな描写、いい加減に映画学校とかで禁止してほしい。「家族っていいね」とかいうクソ道徳の教科書みたいな終幕を選んでしまう軟弱な脚本に失望>>続きを読む

城ヶ島の雨(1959年製作の映画)

1.1

近代化してゆく城ヶ島を眺めて、もう北原白秋が詠った情緒などない、と若者たちが批判するのはよい。しかしその後のシーンで、掌を返したようにこの土地を美しいと言わせてしまうのはあまりにも脆弱ではないか。社会>>続きを読む

キングスマン:ファースト・エージェント(2020年製作の映画)

2.8

バカで悪趣味なキングスマンではなくなった。暴力を楽しいことのように描くのは決して間違っていないが、それと反戦とは両立しない。暴力が楽しいのなら、『プラトーン』のように「戦争最高!」と宣言するのが倫理的>>続きを読む

忠烈図(1975年製作の映画)

4.0

白塗りで日本人を演じるサモ・ハンが手裏剣を投げる!
室内における武侠のしつこさ、サモ・ハン跳躍のくどさが『血斗竜門の宿』由縁。絶命する瞬間が潔い。

ブラッド・ブラザース 刺馬(1973年製作の映画)

4.0

坂道を転がり続ける人間。転落、堕落する人生。男は3人で女は1人。汗で濡れたハンカチに花を包み込むラブシーン。
一対多よりも一対一が印象に残る。ワンカットの適切な長さに肉体のしなやかさが刻印される。助監
>>続きを読む

春原さんのうた(2021年製作の映画)

1.0

画面に人間の、世界の汚さ、醜さがまったく映らない。この映画には美しさしかない。美しさしかない映画にどんな価値があるというのか。

シリーズ エロいい話 エスパー☆マミコ(2012年製作の映画)

4.1

今泉力哉『微温』への言及。安い照明もエロVシネでは気にならないが、予算が大きい映画ではどうか。『アルプススタンド』の失敗があるから、次も慎重にならざるを得ない。

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)

4.7

ついに映画としての面白さまで放棄しようとしている。まだ喧嘩ができる、まだ女にモテる、まだ馬に乗れる、すべて老人の妄執でしかない。
マッチョでいることが社会的に許されない時代に、マッチョはアメリカから逃
>>続きを読む

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)

4.2

『決闘裁判』同様に鈍重だが、主演女優の存在感と映画のリズムが合致している。ガガは常に男性を襲う捕食者として振る舞う。ジェレミー・アイアンズを取り囲むフィルムは過去、映画は亡霊として現れる。男性モデルの>>続きを読む

マクベス(2021年製作の映画)

3.3

3羽の鴉と3人の魔女。イングランドが攻め入ったとき、窓が開け放たれ、木の葉が室内に散乱する。密室だった空間に奥行きが現れ、この開かれた室内で決闘が行われる。

マークスマン(2021年製作の映画)

4.8

イーストウッド『奴らを高く吊るせ!』から『グラン・トリノ』まで。ベトナム帰還兵のニーソン。国に尽くしたが、金もなく、自分のための便所すらない。話し相手がいないからスマホも持たない。俺の人生は終わった、>>続きを読む

結婚式のメンバー(1952年製作の映画)

1.0

映画そのものは悪くないしジンネマンも好きだが、どうしてもこれだけはだめだった。すぐに感情的になる人、大声を出す人がほんとうに苦手で90分が死ぬほどの苦痛だった。なんとか耐えた。見る前からあった頭痛がさ>>続きを読む

誘拐魔(1947年製作の映画)

3.8

よくもこんなくだらない話をここまで面白くしたものだと感心する。誰からもモテる人間はボードレールなど読まない、とチャールズ・コバーンが言う。妄執に囚われた狂気のボリス・カーロフ、誰もいない客席に向かって>>続きを読む

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(2021年製作の映画)

4.0

この映画を見るにあたって必要な前準備としては、おそらく10を超える作品を見なければならないだろう。あまりにもハイコンテクスト過ぎる。もう少しバカにもわかるように作ってほしい。
どこの世界線でも惨めを曝
>>続きを読む

男たちの挽歌(1986年製作の映画)

5.0

4K修復版。この映画を劇場で見ることが、自分の人生で叶えておきたい願いのひとつだったが、今日、ついにその願いが叶ってしまった。いよいよ思い残すこともなくなってくる。見終わって電車の中でも涙が止まらず、>>続きを読む

恋文(1953年製作の映画)

4.0

最初のクレーン・ショットでいい映画だと予感させる。夜、男性2人の背後を電車が通る。夜の電車はいい、中の人が幸せそうに見える、と言う。戦後、居場所のなくなった軍人は手紙の代筆をする。50年代の渋谷駅。パ>>続きを読む

セシル・B/ザ・シネマ・ウォーズ(2000年製作の映画)

5.0

アンディ・ウォーホルのヘアスタイルなセシル・B。映画製作はファクトリーで。どんなに危機的な状況でもちゃんとクスリでヘロヘロになっているのが素晴らしい。ポルノとカンフーの特権化。
セシル・Bの攻撃対象は
>>続きを読む

マルチプル・マニアックス(1970年製作の映画)

4.5

周りの人間すべてを皆殺しにした後で、ディヴァインは鏡に向かって「わたしは美しい」と言う。その瞬間、初めて自分がほんとうに孤独だと知る。怪物に襲われて怪物になる。自国の軍隊に集団リンチされて死ぬ。

男たち(1950年製作の映画)

4.8

下半身付随となったマーロン・ブランド。去勢されたから、婚約者には会えない。最も努力した人間が最も救われない結末を迎える。一生治らない傷。それなのに人生は長い。

レイジング・ファイア(2021年製作の映画)

4.6

アクションは今年見たなかでも頭ひとつ抜けてる。次々とシチュエーションを変えながら、そこら辺に落ちてる道具を自在に使って戦う。ドニー・イェン、ニコラス・ツェー(そしてサイモン・ヤム!)のパフォーマンスも>>続きを読む

ただ悪より救いたまえ(2019年製作の映画)

3.8

ナイフとナタを使ったアクションは、その激痛がよく伝わってくる。特にファン・ジョンミンとイ・ジョンジェが最初に対峙する瞬間が一番興奮した。後半の親子愛ヒューマニズムは見なかったことにしたい。
殺す理由は
>>続きを読む

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男(2019年製作の映画)

4.0

屋外では人物を画面の隅に置くことで、土地や河、ビル群など「環境」が前景化される。室内は薄暗く、スタンドライトの明かりが隠蔽された事実を照らす。ヘリコプターを監視するために野宿する労働者。空が重苦しい。>>続きを読む

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)

4.7

この監督は嫌いだし、相変わらず編集のリズムも好きにはなれない。しかし、あの素晴らしいラストを嫌いになどなれるはずもない。世界の終わりは楽しい。すべてが始まってゆく年始は憂鬱だが、終わっていく年末は楽し>>続きを読む

人間廃業(1931年製作の映画)

3.6

ウーファ時代のシオドマク。カット間の繋がりに飛躍を感じる。ビルが爆発してから結婚式までの流れがあまりにも唐突で、ここが一番面白い。