湯呑さんの映画レビュー・感想・評価 - 13ページ目

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台北ストーリー(1985年製作の映画)

4.6

かつて野球少年だった男の、過去に囚われどうしても新たな一歩を踏み出せない、かといって無邪気だった昔に戻る事もできない、という閉塞感が、80年代の台湾社会の変貌と歩調を合わせて語られていく緻密な脚本がま>>続きを読む

スプリット(2017年製作の映画)

4.4

多重人格者が犯人役のサイコサスペンス、というのは、シャマランが敬愛してやまないヒッチコックの『サイコ』以降、数えきれないほど作られてきた訳だが、注目したいのは、本作が人格の転移と肉体の変容を強引に組み>>続きを読む

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス(2017年製作の映画)

4.7

シリーズ2作目にして主人公が肉親と対峙する、というのは超有名SF映画シリーズになぞらえているのだろうが、痛快なアクションでひたすら押していく前作と比べると、登場人物たちの関係性の推移、キャラクター造形>>続きを読む

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版(1991年製作の映画)

5.0

胸が締め付けられる。その先にある光を求めて、荒々しい息づかいと共に闇の中を躍動する少年達。彼らが求める少女達は、光が闇を切り裂く瞬間にだけ、そのおぼろげな姿を浮かび上がらせるだろう。しかし、少年達が手>>続きを読む

ムーンライト(2016年製作の映画)

4.6

俺は黒人でもゲイでもないから、シャロンと彼が抗おうとした運命について、完全に理解できた訳じゃない。でも、リトルがシャロン、シャロンがブラックへ成長しても決して拭い去る事のできなかった、寄る辺なさみたい>>続きを読む

午後8時の訪問者(2016年製作の映画)

4.5

ある女が人々のもとを訪れ、訊かれたくない問いを繰り返して煙たがられる、という構造は、前作『サンドラの週末』と同じである。しかし、本作はある身元不明死体をめぐるミステリー仕立てになっている為、主人公ジェ>>続きを読む

パッセンジャー(2016年製作の映画)

3.8

惑星移住者を乗せた宇宙船の中で、機械の故障により1組の男女だけが冷凍睡眠から覚めてしまう。目的地までは後90年航行を続けなければならないし、しかも再び冷凍睡眠に入る術を彼らは失っている。と、この様な設>>続きを読む

お嬢さん(2016年製作の映画)

4.5

私は未読なのだが、驚く事にほぼ原作通りの映画化らしい。ただ、舞台を日韓併合時代の韓国に移し変えた為に、サドと春画が混ざり合って何が何だか分からないエログロ感が生まれている。しかし、本作で描かれているの>>続きを読む

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)

4.3

冒頭とラストのミュージカルシーンは確かに素晴らしい。おそらく、このシーンが撮りたかったのだろうな、というのがスクリーンから伝わってくるのは、観ていて気持ちの良いものである。ただ、その間に挟まれた本編に>>続きを読む

WE ARE X(2016年製作の映画)

4.3

最終的に、YOSHIKIとTOSHI、HIDEの友情物語に収斂してしまう事に不満を覚えはするのだが(何しろ、ここまでバンド内のゴタゴタが大っぴらになったバンドは他に無いのだから、もっと下世話な暴露話を>>続きを読む

哭声 コクソン(2016年製作の映画)

4.5

『エクソシスト』ばりのオカルトホラーに『ユージュアル・サスペクツ』の様なフーダニット・サスペンスの要素をぶち込んで怒涛の展開で観客を引きずり回す怪作。登場人物たちの行き当たりばったりな行動や無意味に思>>続きを読む

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)

3.5

12年ぶりに帰郷した劇作家が家族を前に帰郷の理由を説明しようとした途端、兄の暴力的で強引な介入により、無理やり話を中断させられ遂には追い返されてしまう、という終盤の展開に、観客は呆気にとられた筈だ。何>>続きを読む

ザ・コンサルタント(2016年製作の映画)

4.0

『96時間』や『イコライザー』など、平凡なオッサンが実は最強の殺し屋でした~という映画が最近増えている様な気がするのだが、リーアム・ニーソンにしろデンゼル・ワシントンにしろ、その殺し屋達が揃いも揃って>>続きを読む

皆さま、ごきげんよう(2015年製作の映画)

4.2

いかにもイオセリアーニらしい、人を食った様な演出と筋運びだが、とりあえず確認しておきたいのは、この映画の登場人物たちは、空間と時間を自由に行き来する能力を持ち合わせている事だ。扉の隙間を通るには身体を>>続きを読む

ホワイト・バレット(2016年製作の映画)

4.1

今年最初の1本。ハラハラと手に汗を握り、クスクスと笑いを噛み殺しながらの80分だった。クライマックスの悪い冗談としか思えない壮絶なアクションシーンに『キングスマン』を思い出したが、しかし『キングスマン>>続きを読む

ヒッチコック/トリュフォー(2015年製作の映画)

4.6

『定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー』の壮大な予告編という感じで、何か新しい発見や独自の見解が述べられている訳ではない。それでも、ヒッチコックが映画内における時間の操作について、時間を自由に操れ>>続きを読む

マダム・フローレンス! 夢見るふたり(2016年製作の映画)

3.9

子供の頃は漫画家になりたかった。しかし、どうやっても左向きの顔を上手く描けない事に気付いて、いつの間にか諦めてしまった。夢を実現できるのはほんのひと握りで、ほとんどの人は才能という壁にぶつかって絶望す>>続きを読む

ガール・オン・ザ・トレイン(2016年製作の映画)

4.4

車窓から、他人の生活を覗き見る女。窓を捉えたショットが重なるこの冒頭部分でヒッチコックの名作『裏窓』を思い出す人も多いだろう。『裏窓』では、一方的に「見る」側の立場にいたJ・スチュアートが殺人犯に「見>>続きを読む

エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に(2015年製作の映画)

4.4

小沢健二ではないが、誰しも永遠に続くと思える時間を通り抜けて、それが2度と戻らない美しい瞬間であったのだと後から気づく。リチャード・リンクレイターは映画を通して「人生にとって時間とは何か?」という問い>>続きを読む

インフェルノ(2016年製作の映画)

4.0

基本的にこのシリーズは「謎解き」がメインに据えられてはいない。なぜなら、観客にあらかじめ謎が提示されている訳ではないからだ。主人公ラングドン教授が様々な美術品や建築に隠された秘密を解き明かした時に初め>>続きを読む

ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)

4.2

黒沢清のホラー映画では、半透明の幕が重要なモチーフとして扱われる。それは、現世と異界を隔てる障壁として登場し、にもかかわらず大抵は天井から吊るされたカーテンの様な、いかにも頼りない姿で人々の前に現れ、>>続きを読む

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)

4.8

いつもそうなのだが、クリント・イーストウッドは全てが終わった場所から映画を始める。『ミリオンダラー・ベイビー』にせよ、『チェンジリング』にせよ、凡百の映画ならクライマックスに配置する感動的な場面が、イ>>続きを読む

怒り(2016年製作の映画)

4.8

いったい、何に対して「怒り」を覚えるのか。大切にしていた人に裏切られた怒りなのか。愛する人を最後まで守る事ができず、背を向けてしまった己の弱さに対する怒りなのか。どれだけ叫んでも訴えても、その声が誰に>>続きを読む

ティエリー・トグルドーの憂鬱(2015年製作の映画)

3.2

映画の後半、同僚の不正を暴いたティエリーが、その同僚に「あなたも上司に報告するのか」と問い質される場面がある。ティエリーはその問い掛けに対し「わからない」と応じるのだが、このやり取りは私達を囲い込む市>>続きを読む

イレブン・ミニッツ(2015年製作の映画)

4.1

いわくありげな人物が多数登場し、視点が次々に移っていく群像劇だが、個々のエピソードが最後に収束し、隠されていた謎が全て明らかになる、などというカタルシスは全く無い。何しろ、物語背景や登場人物達の過去な>>続きを読む

だれかの木琴(2016年製作の映画)

3.6

誰もが孤独を抱えている。その孤独をつかの間でも埋めてくれる相手を探している。誰かと誰かが触れ合う瞬間、お互いの孤独が混ざりあって、自分だけの音楽が心の中で鳴り響く。その逢瀬はやがて終りを告げ、人はまた>>続きを読む

シン・ゴジラ(2016年製作の映画)

4.0

ゴジラに蹂躙され跡形も無くなった市街地の惨状、川が逆流し係留されていた船がひとかたまりになって押し流される強烈なイメージ、本作が3.11以降に作られた怪獣映画=災害映画である事を強く意識させるシーンで>>続きを読む

ハイ・ライズ(2015年製作の映画)

3.8

外界から隔絶されたタワーマンションを、階級社会の縮図とし、各階層の住民同士のいさかいを階級闘争として描く、というわかりやすい話なのだが、混乱が進行するにつれ、いさかいの原因であった格差そのものが解消さ>>続きを読む

セトウツミ(2016年製作の映画)

4.0

原作コミックは1話を読んだだけで傑作だと思った。このノリをどの様に映像化するのかと思ったが、大森立嗣は役者のスキルを信頼し、それを最大限に活かす手法をとった様である。その戦略は正しいし、見事に期待に応>>続きを読む

好きにならずにいられない(2015年製作の映画)

3.7

個人的に、知人の女性から「あなたはいい人だが、女性にはモテないと思う」と言われた後にこの映画を観たので、非常に複雑な気持ちになった。主人公フーシはその特異な容貌と40歳を過ぎて未だ独身である為、周囲か>>続きを読む

エクス・マキナ(2015年製作の映画)

3.8

目を見張るような特殊技術による画作りと、B級ノワール的な安っぽいストーリー展開が好ましい。最後まで見れば分かるが、本作はSFの皮をかぶったファム・ファタール映画であり、頭でっかちなオタク2人が女の身体>>続きを読む

冬冬の夏休み(1984年製作の映画)

5.0

本作のデジタルリマスター版をを観て、『菊次郎の夏』はこれがやりたかったんだろうな、と思った。その試みが上手くいったかどうかは、井出らっきょが全裸になるシーンしか覚えていないのでよく分からないのだが、『>>続きを読む

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)

4.5

未読だが、おそらく原作はくだらないサイコサスペンスなのだろう。黒沢清はその筋書きを頂いて、恐怖と笑いの入り混じった唯一無二の空間を作り出してしまう。誰もが香川照之演ずる犯人の自宅に東出昌大が侵入するシ>>続きを読む

ヴィクトリア(2015年製作の映画)

4.3

とりあえず、これだけ動きのある筋書きをワンカットで撮ってしまう心意気と緻密な設計は称賛に値する。もちろんワンカットである事の弊害はあって、かなり場面転換の激しい展開であるにもかかわらず、事件の発端とな>>続きを読む

ボーダーライン(2015年製作の映画)

3.6

トランプ候補の選挙演説を見るにつけ、メキシコの麻薬カルテルがいかにアメリカで重要なイシューとなっているか痛感させられるのだが、しかし国境に物理的な壁を築いたところで、何も問題は解決しないというのがこの>>続きを読む

山河ノスタルジア(2015年製作の映画)

3.7

緻密な脚本に圧倒された犯罪劇『罪の手ざわり』から一転、1人の女性が生きた25年という歳月を丹念に追う事によって、ミレニアムイヤー以降の中国の変貌とその行く末を描いたメロドラマ。人も政治も、何かを選び取>>続きを読む