湯呑さんの映画レビュー・感想・評価 - 12ページ目

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シェイプ・オブ・ウォーター(2017年製作の映画)

4.6

主人公の名前が示すとおり、本作のストーリーは『マイ・フェア・レディ』を下敷きにしている。下町生まれの花売り娘イライザが、言語学の教授であるヒギンズの指導によって言葉づかいを矯正され、一人前のレディにな>>続きを読む

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)

4.7

レイプ殺人事件の被害者の母親は、一向に進まない捜査に業を煮やし、事件現場近くに立てられた3つの広告看板に、警察を糾弾する内容の広告を掲げる。広告には警察署長の個人名まで挙げられていた為、警察はもちろん>>続きを読む

リバーズ・エッジ(2018年製作の映画)

4.3

学校で壮絶なイジメにあう青年(吉沢亮)が、河川敷で死体を発見する。彼はその事を警察に届けず、それを「宝物」と呼んで、親しい友人と共有しあう。彼は、他人の死と直面する事で己の生を実感する事ができる、と友>>続きを読む

羊の木(2018年製作の映画)

4.5

タイトルは「スキタイの羊」「バロメッツ」とも呼ばれる、かつてヨーロッパや中央アジアに生息するとされていた伝説の植物から採られている。羊の木には、茎から子羊が直接生えているタイプと、茎になった実から子羊>>続きを読む

ルイの9番目の人生(2015年製作の映画)

4.3

この映画、ネタバレせずに語る事がかなり難しい。終盤に明かされる真実に向かって物語が集約され、そこから作品のテーマが浮かび上がってくる構成になっているからだ。その為、曖昧な書き方しかできないのだが…
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悪女/AKUJO(2017年製作の映画)

4.6

監督曰く『ニキータ』へのオマージュらしいが、リュック・ベンソンが観たら腰を抜かすのではないかというぐらい、エクストリームな魅力に溢れた傑作である。延々と続くFPS風の戦闘シーンで幕を開け、鏡の前に立っ>>続きを読む

マンハント(2018年製作の映画)

4.7

ジョン・ウーの新たな代表作にして、映画史上に残る傑作である。
映画の中盤、中之島から水上バイクに乗った福山雅治とチャン・ハンユーが、大阪城公園をだんじりに乗って練り歩く國村隼と交錯する。大阪在住の人間
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ダークタワー(2017年製作の映画)

3.8

この監督、あまりアクションの演出が得意ではないのだろう。スロー撮影を駆使してスピード感を強調しているつもりらしいが、イリドス・エルバはスピーディでスタイリッシュなガンファイトより、もっと重厚で泥臭い格>>続きを読む

デトロイト(2017年製作の映画)

4.8

「とにかく権力を振りかざして偉そうにしてる奴はクソ!暴動でも何でも起こして全員ブチのめすしかない!」
映画が終わった瞬間、そんな衝動に駆られ思わず立ち上がったが、周りを見回しても一緒に暴動を起こしてく
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ジュピターズ・ムーン(2017年製作の映画)

4.4

冒頭から、緊迫感溢れるシリア難民たちの逃亡場面から幕が続く。アップを多用した長回しは、同じハンガリー映画『サウルの息子』を思わせるが、刑事に撃たれた難民の少年が浮遊するシーンからは、まさにこの監督の独>>続きを読む

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)

4.9

1カット、1シーンごとに、これはとてつもない事がスクリーンの上で起きているのだと実感し、とにかくこの至高の映画体験が終わらない事を心から祈らずにはいられない映画など、そうあるものではない。とんでもない>>続きを読む

希望のかなた(2017年製作の映画)

4.8

とにかく、役者陣の表情が良い。はみ出し者の集まるレストラン、生き別れになった妹を探すシリアからの難民、薄汚い迷い犬。凡百の監督ならお涙頂戴のウェットな演出に傾きそうな要素を盛り込みながら、カウリスマキ>>続きを読む

キングスマン:ゴールデン・サークル(2017年製作の映画)

4.0

1作目は冗談抜きで映画史に残る傑作だと思っている。延々と続くアクションシーンの過剰さが、風変わりではあるもののスパイ映画としては王道とも言える筋運びと微妙な緊張関係を保ちつつ、最後まで破綻なくまとめあ>>続きを読む

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)

4.3

まさに、超絶技巧。絵筆をキャンバスに叩きつけた様なゴッホの荒々しいタッチは、どう考えてもアニメーションには不向きな筈である。それを成立させているのは、製作に参加した油絵画家たちの、気が遠くなる様な手作>>続きを読む

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)

4.7

ホドロフスキーというと『エル・トポ』ぐらいしか観ていないのだが、まさか50年近く経ってなお、過去の代表作に引けを取らないほどイマジネーション豊かな新作を拝めるとは。邦題通りまさに「終わらない詩情」であ>>続きを読む

ノクターナル・アニマルズ(2016年製作の映画)

4.7

正直な話、私の収入ではトム・フォードのスーツなど買える訳がない。一度も袖を通した事の無いアパレルブランドのデザイナーがどんな美学を持っているのか理解できる訳がない。だから、この映画を通してトム・フォー>>続きを読む

ドリーム(2016年製作の映画)

4.5

アメリカ宇宙開発の礎となったマーキュリー計画の裏で、差別や偏見と戦いながら、計画を成功に導いたNASAの黒人女性スタッフの奮闘を描く。本作で描かれている差別は、3つの階層で描かれている。まず、人種差別>>続きを読む

ブレードランナー 2049(2017年製作の映画)

4.3

「同一の空間は二物によって同時に占有せらるる事能わず」
本作の主人公、ブレードランナーである新型レプリカントのKは、日々の過酷な労働や人間から受ける迫害によって、常に疲れきった表情を見せる。そんな彼の
>>続きを読む

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(2017年製作の映画)

4.7

子供の頃、エドガー・アラン・ポーの「黒猫」を子供向けに翻訳したものを読み、震えあがった。お話そのものも怖かったが、何より恐ろしかったのはそこに描かれていた、壁の中に埋まった死体の挿絵である。私はその本>>続きを読む

アトミック・ブロンド(2017年製作の映画)

4.5

何とも時代錯誤な作品である。本作のハイライトである、ベルリンのアパルトマンでの戦闘場面。目まぐるしく人が入れ替わり、血飛沫と銃弾が飛び交う10分程度のこのシークエンスを、作り手は手持ちカメラによる長回>>続きを読む

ゲット・アウト(2017年製作の映画)

4.2

コメディアン出身の監督らしく、本気とも冗談ともつかない、トンデモない大オチが待ち受けるB級ホラーである。それでもアホらしくならずに最後まで引き込まれてしまうのは、幾つかの立派な理由がある。ひとつは、ど>>続きを読む

エイリアン:コヴェナント(2017年製作の映画)

4.0

シリーズ第1作『エイリアン』は、フェミニズムという観点から読み解く事のできる作品だった。それは何も、シガニー・ウィバー演ずる「闘う女性」の存在だけが理由ではない。エイリアンは人間を宿主として増殖してい>>続きを読む

新感染 ファイナル・エクスプレス(2016年製作の映画)

4.3

映画にしろゲームにしろ漫画にしろ、巷にこれだけゾンビが溢れていると、オリジナリティのある作品を生み出すのも難しい。本作の独自性は、ゾンビが跋扈する舞台を走行中の高速鉄道に据えた事である。鉄道を舞台にす>>続きを読む

散歩する侵略者(2017年製作の映画)

4.8

ただただ、素晴らしい。『CURE』で描かれた幸福な解放感を伴う自我の喪失、『回路』を思わせる光溢れる荒廃した世界の風景、『岸辺の旅』が活写した喪失感と背中合わせの愛の充足、『クリーピー 偽りの隣人』で>>続きを読む

オン・ザ・ミルキー・ロード(2016年製作の映画)

4.3

映画の冒頭、屠殺人が鳴き喚く豚を引きずり、首を切り落とす。溢れ出る血を容器に移すと、家鴨達が次々と血の中へ飛び込み、その白い羽が赤く染まっていく。鮮やかな色彩に溢れた本作で、一際目立つのはこの白と赤の>>続きを読む

エル ELLE(2016年製作の映画)

4.6

ゲーム制作会社の女社長が、自宅で覆面の男に強姦される。その後も、まるで彼女の生活を監視しているかの様なメールが届き、性的な嫌がらせが繰り返される。果たして、このレイプ犯の正体と目的とは…この映画のあら>>続きを読む

パターソン(2016年製作の映画)

4.8

ジム・ジャームッシュは、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と『ダウン・バイ・ロー』、『ミステリー・トレイン』しか観ていない。何となく、ああ、ミニマリズムとはこういうものを指すのかな、という感想を抱い>>続きを読む

ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)

4.6

天才的なドライビングテクニックを買われ、銀行強盗の逃がし屋を請け負っている主人公BABYは、子供の頃の交通事故が原因で常に耳鳴りに悩まされている。その耳鳴りを止める為に、彼はイヤホンで音楽を聴き続けな>>続きを読む

カーズ/クロスロード(2017年製作の映画)

3.3

ライトニング・マックイーンの物語としては、この様な終わり方がベストな選択なのだろう。『クリード チャンプを継ぐ男』と同じく、テーマは老いと継承。ピークを過ぎたチャンピオンが才能あるルーキーと出会い、自>>続きを読む

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(2016年製作の映画)

4.6

世界最大のフランチャイズ企業であるマクドナルド社の「いかがわしい出自」を暴いた事だけが、この映画の肝ではない。それなら単に社会正義を振りかざしただけの退屈な作品になっただろうし、そもそもこんな昔の話を>>続きを読む

ジョン・ウィック:チャプター2(2016年製作の映画)

4.2

前作は主人公の容赦ない殺しっぷりに対して、その動機があまりにしょぼく、「いくら何でもキレ過ぎだろ…」と、どう見てもキアヌ・リーブスの気が狂っている様にしか見えなかった。それが欠点という訳ではなく、スタ>>続きを読む

ライフ(2017年製作の映画)

4.2

WEB版「WIRED」では、この作品をドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『メッセージ』と比較して酷評している。いわく、この作品は『エイリアン』と『ゼロ・グラビティ』と『オデッセイ』を足して3で割っただけの映画で>>続きを読む

ありがとう、トニ・エルドマン(2016年製作の映画)

4.6

意外に分かりにくい映画なんだな、というのが正直な感想。予告編を見る限りでは、仕事に忙殺され人間らしさを失っている娘に、父親が度を越したユーモアを使って本当に大切な事を教えていく、みたいな話だと思ってい>>続きを読む

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)

4.8

まず、銃弾と血が縦横に飛び交う地上戦を、ゴア描写も混じえながら観客を混乱をさせる事なくきっちりとまとめあげたメル・ギブソンの演出力に舌を巻く。わざとらしいスロー撮影や手持ちカメラの映像など使わずとも、>>続きを読む

メッセージ(2016年製作の映画)

4.5

『複製された男』で見せたシュールな映像美と、『ボーダーライン』で発揮した抜群のストーリーテリング、この監督の職人監督的な良さが十二分に発揮されたファーストコンタクトSFの快作。女言語学者が宇宙人と出会>>続きを読む

マンチェスター・バイ・ザ・シー(2016年製作の映画)

4.0

現在進行形のエピソードを寸断する様に、過去のエピソードが挿入される。決して、洒脱とは言えない語り口である。しかし、この不器用さこそが本作の肝なのだろう。自らの過ちによってかけがえのない存在を失った主人>>続きを読む