世の中にこんなに面白いものがあるとは思わなかった。素晴らしい。ハードボイルド作品の中でも近年では稀に見る傑作。
主人公のキャラ付けは明確にチャンドラーのフィリップ・マーロウ型で、難しいジャンルに挑戦している。フィリップ・マーロウが体現した古き良き騎士像はロバート・アルトマンのロング・グッドバイで完全にトドメをさされてしまい、真面目に描く事ができなくなってしまった。今のマーロウ像はいかに馬鹿馬鹿しく描けるか、その点にかかっていると言っても過言ではない。
そういった点でもっとも成功例に近いのはビッグ・リボウスキかもしれないが、あの作品はその精神性すらも馬鹿にしてしまっていて、ハードボイルド物としては完全に失敗してる。
そんな中でこの作品。タクシーでのオフビートな会話が主軸という点でめちゃくちゃコーエン兄弟の影を感じるけど、それはスタイルだけ。見た目を動物のキャラクターにしたことで真面目さを巧妙に隠している。下地にはガッツリ、チャンドラーへのリスペクトが感じられて、とても信頼できる。特に後半にかけて銀行強盗の計画が物語の主軸に置かれていく所はセントルイス銀行強盗へのオマージュかとも思った。
動物の姿に信念を巧妙に隠した絶妙なバランスの作品。めちゃくちゃ楽しんだ。
