ここまで依存症というものをリアルに、そして斬新な演出で説得力を持たせながら描いたアニメ作品が他にあるだろうか。
ボージャックのアルコール依存やODに限らず、この物語の主要キャラクターたちはそれぞれに大きな悩みを抱えている。そのすべての根底にあるのが、きっと「どうすれば幸せになれる?」という不安。
個性豊かな彼らの中でわたしがいちばん好きなのはトッドだが、いちばん共感したのはライターのダイアンだった。
自己肯定感が限りなく低く、短気で、正論屋で、人と自分を比べては落ち込んでしまう。
ボージャックの自叙伝のゴーストライターとして物語に現れた彼女が終盤では自分の自叙伝を書こうとして悪戦苦闘したり、シーズン1でボージャックがダイアンに伝えたメッセージをシーズン6のラストではダイアンがボージャックに伝えていたり。自分を見つめられないボージャックと、自分を見つめすぎてしまうダイアンの対比が全編を通して描かれていた。
シーズン6の7話で、パートナーに抗うつ薬をちゃんと飲んだ方がいいと提案され、ニキビができるし太りやすくなるから飲みたくない、ほんとうの自分を知ったらきっと自分を嫌いになると嘆いていたダイアンが、しばらく仕事で家を空けていたパートナーを空港で迎えるときにはかなりふっくらしていて、その少し困ったような笑顔になんだかどうしようもないほど涙が出た。パートナーが丁寧に愛を伝え続け、ダイアンもそれを信じられるようになったからこそだった。
悪しき過去を精算しなければならない瞬間は誰しも必ず訪れる。いくら自分が悔い改めても、自分が奪った誰かの大切なもの、自分が傷つけた誰かの傷は元通りになるわけではないし、自分の認識外の加害によって踏み潰されてしまっていた誰かが報われることはない。その事実は一生抱えて生きていかなければならない。お互いさま、なんてことはない。
むなしい人生をそれでも生きていくためには、やはり自分を諦めないでいてくれる人が必要。
せつなくも美しい幕切れだったが、もしも叶うなら、オムニバス形式のスピンオフでいいから、少し大きくなったルーシーや、ボージャックとピーナツバターの同居生活を覗き見したいな。