実写ドラマ版を見てやたら感動して、アニメ版に挑まねば!とずーっと思っていた。やっと第1期完走。
八代目有楽亭八雲が、一度は破門を言い渡した与太郎と小夏に、自身の過去を語り始めてからのドラマ。毎エピソード胸が締め付けられる。行き場を失って弟子入りした菊比古(後の八代目)と、とにかく落語が好きでたまらなくて強引に弟子入りした(後に助六と名乗る)初太郎。ライバルとも違う関係、憧れと信頼、不思議なつながりの二人が、自分のスタイルを身につけていく様子がたまらなく面白い。
そして慰問先から師匠が連れ帰った芸者みよ吉がストーリーに絡み始めてから、物語は一気に大人の男女の話に転がり始めていく。芸で身を立てたい菊と、彼に言い寄るみよ吉。男女関係を知って、幼い頃から芸事を学んできた菊が、色っぽい廓話(くるわばなし)を中心にメキメキ腕をあげていく。落語家として世間に認められていく一方で、二人の関係がギクシャクしていく。回を追うごとに雰囲気はどんどん重苦しいものに変わっていく。
やがて傷心のみよ吉は助六の優しさに身を委ねることに。しかしそもそも自堕落な二人は、行方をくらましてしまう。自分のためにも、落語界のためにも、助六の存在が大切だと気づいた菊比古は二人を追う。
それぞれが抱えた形の違う孤独がじーんとしみてくる。それだけにクライマックスが迫って、3人の友情と愛憎劇がどうなるのかハラハラする。昼ドラにハマる感覚に近い?いやいや間違いではないかも。再会したみよ吉が流す涙を菊比古が舌で拭う場面の色っぽさ。大人のアニメだ。
思えばアニメ声優だって落語と同じ話芸だ。あてるキャラが変われば声色も変わり、見ている側の気持ちをかき立ててくれる。菊比古役の石田彰は、どこか頼りない喋りだった前半と、人気落語家となってからの自信と落ち着きある後半との対比は見事。助六役の山寺宏一は自在に声色を操る落語でのやりとりを、これまた見事に演じきる。新人時代に「シティハンター」のその他大勢を毎回演じてきた経験があってこそだと、勝手に思うと聴いていて胸にくる。
二人会を催すクライマックスで、久々に高座に上がった助六が人情噺「芝浜」を演ずる場面。みよ吉、その子供との関係を通じて、それまでの客を沸かす落語から新境地を感じさせる助六。いやもう山寺宏一の「芝浜」にマジ泣きするとは思わなかった。みよ吉を演ずるのは林原めぐみ。これがなんとも艶っぽい喋りから、演歌で歌われそうな情念渦巻くオンナの心情まで巧みにこなす。しかも林原めぐみが歌う椎名林檎作の主題歌が絶品。喋るでも歌うでもない囁きがビートに乗るOP曲「薄ら氷心中」。プロ声優たちのいい仕事が堪能できる。
アニメだからできる表現や描写が面白い。左右に顔を向けながら二役の会話を演ずる落語を、それぞれアングルを変えて会話しているように見せる。でもこれは話芸を正面から見据える落語では、本来あり得ない見せ方。そんな演出がなくても笑わせてくれる噺家さんの凄さを、逆に思い知る。伝統芸能とアニメでの新たな表現が重なる秀作だ。
2期も続けて挑みまする。実写ドラマ版もっかい見ようかな。