平田一

BanG Dream! It's MyGO!!!!!の平田一のレビュー・感想・評価

BanG Dream! It's MyGO!!!!!(2023年製作のアニメ)
4.6
“グッチャグチャに壊れ続ける、ガールズバンドストーリー”

2015年発足のメディアミックスプロジェクト「BanG Dream!」新作アニメにして、衝撃の愛憎劇。解散したバンドの過去に囚われている元メンバーと様々な思惑でバンドに関わる新メンバーが、バンド存続のみならず、取り返しがつかないほどの修復不能へ陥っていく、(サブタイトルの「迷子」故の)粛清劇を描き出す。バンドにすべてを捧げる“醜悪な臆病者”が隠し続ける欺瞞や嘘に、打ちのめされて壊されていく、BanG Dream!史上凶暴かつハードコアなシリーズ構成は「ギヴン」に続いて、ズタズタで傷だらけになりながらも足掻き続けるバンドアニメを手掛けた綾奈ゆきこさん。本作では初めてのストーリー原案も担当。

解散したCRYCHICの元メンバー・高松燈(たかまつ ともり)はその出来事がキッカケでバンドに消極的になり、人付き合いも苦手なことも相まり、他人を避けていた。しかし羽丘高校に転校してきた千早愛音(ちはや あのん)と出会ったことで燈や他のメンバーたちは動きだし…

その瞬間、音を立てて、“何か”が壊れ始めていくーー。

いやとにかく、BanG Dream!ってこんなお話だったっけ!? って驚くぐらい、凄惨で陰鬱なお話です。それもちょっとの諍いで崩壊するわけじゃなく、開幕からそれぞれの根深く抱える問題が、バンド崩壊、ともすれば人間関係での信頼を完膚なきまで叩き壊す“必然”になっていて…主人公の高松燈はコミュニケーションが不得意で、千早愛音は他人の目と承認欲求への固執、要楽奈(かなめ らーな)は自分の気持ちだけに従う自由人、長崎(ながさき)そよはとっくに壊れたバンドに激しく依存して、椎名立希(しいな たき)は何をするにも燈を軸に考える…全然相手を見ていなくって、自分の都合を優先ばかり…相手を見れたと思っていたら「止(トドメ)を刺した」だけだった…これまでにもギクシャクしているBanG Dream!アニメはあったんですが、ここまでのギクシャクどころか、キャラクターを精神的に壊して殺し続けるような、精神的鬱アニメなBanG Dream!って初めてです…(ムッチャ褒めてます)。

その姿勢は1話から一貫していたんですが、7話の即興演奏パートで僅かな希望が芽生えだす。それこそ先に述べたような“ようやく見れた”の意味であり、同時に“トドメを刺してしまう”9話へのカウントダウン。これほどまでなす術もなくバンドが壊れていく様はものスッゴく驚きですし、陰惨たるや「ギヴン」以上…

でも不思議と陰惨ぶりが露骨じゃなかったんですよ。このアニメの陰惨ぶりは日常を生きていれば絶対に避けては通れぬ「誰もが知ってる壁」であり、どうやって燈たちは乗り越えて進むのか? これこそが「It's MyGO!!!!!」の見所だと思ってます。その壁と自身が抱える「欠落」や「醜悪」を全部ぶつけて膿を吐き出す第10話「ずっと迷子」。詳しくは言えませんが、大号泣してました…。

以前ボクが呟いた(あ、今はポストか)文章を引用すると、

“それぞれの抱える未練を容赦なく抉るのが、ずっと気持ちを伝えられない未練を抱えた燈ちゃんで、その詩が歌になって、覚醒した瞬間に、皆を蝕む後悔も未練も決壊させていく”

それほどまでエモーショナルなことが10話に起こるんです。しかも一切の展開に嘘っぽさがなかったのは(個人的な見解です)、「ギヴン」第9話における「冬のはなし」以来ですし、この話でバンドアニメ、BanG Dream!最高傑作です!

他にも手書き(タッチのアニメ)が反映されている3DCG(これが木谷さんが言ってた新技術なのかな?)、迫真のライブシーン…どれもこれも極上ですし、BanG Dream!史上最高レベルな第10話の「詩超絆(うたことば)」…その後の「Mygo!!!!!」としてリスタートの本編(11~12話)と、見所がとにかく多く、多すぎるぐらいですが、ボクはやはりBanG Dream!らしからぬ「陰鬱さ」が激推しです。

ボクは『ブルーバレンタイン』という憂鬱な恋愛映画(個人的名作映画)やその予告で使われていた(Grizzly Bearの名曲)「Alligator」が大好きです。ちなみに映画の内容は一組の男女の間に愛が生まれていく瞬間、そして終わってしまうまでを描ききったお話で、映画館で観終えた瞬間、涙を止められなかったです。理由は色々あるんですが、やはり一番大きいのは、何かが生まれる瞬間やそれを感じる瞬間や、終わってしまうことをもはや止めることが出来ない痛み…人生で一回は誰しも経験する痛み、醜さや、繋がりを壊してしまった後悔が自分のことだと感じることが出来る作品だったから。その痛みをスゴいパワーで呼び起こせる作品って、簡単に出来ることではないから余計にスゴいんです。

「BanG Dream! It's Mygo!!!!!」は同レベルか分かりませんが、匹敵するパワフルな作品だとは思ってます。繋がりが糸のようにプツンと切れた感覚(錯覚だと言ってもいいです)やもう一度繋がり始めた言葉に出来ない感情を、これほどまでアニメーションで描くことが出来るのをまさかキラキラドキドキなBanG Dream!でやるなんて。

バンドが完全に壊れてしまったどうしようもない現実と、だからこそ輝かしい“バンドが生まれる瞬間”を鮮烈に焼き付けた、今期覇権アニメといっても、過言じゃないと思います。ベスト・オブ・BanG Dream!って言ってもホントに良いぐらいに、人の人生を悪気なく次々と傷付けて、容赦なく破壊していくこのBanG Dream!、スゴいです…真剣にアプリゲームを習慣にしたいですし、新規でもオススメできるアニメだと思ってます!

ただしこれを軽い気持ちで見るのはオススメできません。10話までメンタルをボコボコにしちゃうので(KO判定が出てるのに、追撃で再起不能にするに等しいもんですね)。

エピローグの最終回は“中途半端に過去を絶つ”、“手順を踏んで完璧な悪役”を全うできない、質の悪さを抱えるキャラの掘り下げってところかなぁ(言い方は酷いことを承知で言わせてもらうとね)。
平田一

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