YasujiOshiba

映像研には手を出すな!のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

映像研には手を出すな!(2020年製作のアニメ)
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アマプラ。放送は何回か見た。すごいと思っていた。娘らから勧められた。ようやく全部を一気に見た。やっぱりすごい。

冒頭に『未来少年コナン』(1978)へのオマージュ。それから芝浜の街の探索のドキドキ。リアルな冒険から、空想の世界への飛躍。こいつはアニメだ。無機物と空想物にアニマを吹き込む、まさにアニメーション。

金森さやかのキャラがよい。一見、こまっしゃくれた吝嗇むすめなのだけど、その不気味で計算高い笑みの背後に、じつは熱いものが流れているという設定がよい。世の中、綺麗事だけじゃ生きていけない。利用すべきものは利用して、お金を回さなければ回ってゆかないのだというリアリズムは、ちょうどマキアヴェリズムの背後に流れる理想の共和国への夢のようなもの。こういう人がいないと、いかなる文学も美術も、はっとさせるような建築物も、美しい景観を持つ都市も、美しい都市があるからこその美しい自然も生まれることはないわけだ。

あとは浅草みどりと水崎ツバメのアニメへの偏愛ぶりを楽しめば良い。教師やら生徒会やらの権威にも、メンツだけの自動機械ぶりと人間らしさが入り乱れている。そこは型通りだけれど、ちゃんと物語を駆動させてくれる。そもそも、見た目は怖いけど、実はそうでもないというキャラクターがすべてという作劇づくりは大したものだ。

だからこそ「芝浜UFO大戦」という劇中劇の迷走するストーリーが、エイリアンによる地球侵略ではなく、そのエイリアンもまた私たち自身であったという発見に行き着くわけだけれど、残念ながら、この最後の劇中劇の出来がよろしくない。アイデアをさんざん説明されたから理解できるけれど、それまでのような、オオ、こうなったのかという高揚感がない。

もちろん、彼女らがたどりついた結末は、そうでなければならなかったと思わせるものだ。だからそのアイデアに触れた人々は、窓を開けてリアルのなかにファンタジーが突き出してくる姿を目撃するわけだ。そこは美しい。

けれども、残念ながらあのアニメ中アニメに、そこまでのクオリティーがない。もちろん浅草みどりは、まだまだ改善できる余地があると言うのだろうし、そのことは映像研の仲間たちもわかっている。そこもよい。けれど、もう少し圧倒してほしかった。そこまでは、圧倒感があったのに、最後の最後が腰砕けになってしまったのは、ほんとうに惜しい。あそこまで迷いながら、困難を乗り越えながら、どたんばの逆転ホームランを狙ったにもかからわず、そこが残念。

でも夢に終わるのはよいのだ。本気で残念だと思わせてくれたのは、なんども感動させてくれたアニメだったからで、そこは間違いない。こいつは確かに傑作だった。そう思う。
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