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スモール・アックスのどど丼のレビュー・感想・評価

スモール・アックス(2020年製作のドラマ)
4.2
「それでも夜は明ける」のスティーヴ・マックィーン監督が黒人映画を5篇のオムニバス形式で描くAmazon Originalのリミテッドシリーズ。濃密な傑作集でした、英国黒人映画祭か何かに参加したかのような気分。

GG賞ではドラマ扱いのノミネートだったけど、5本の映画と考える方が自然(公式的にもそう)。商業ベースの長編映画は過去4作しか撮っていないマックィーン氏が突如5作の中長編作品をぶっ込んでくるとは。各作品のページが映画の方に無いので、全部ここに挙げます。


"Mangrove" ★4.1
プライドのために、後世のために。黒人差別による不当逮捕を巡る裁判を描く法廷映画。ブラックパンサー党員がいてこのテーマ、名称的にも「シカゴ7裁判」の親戚映画といっても過言では無い。終盤の被告それぞれの証言シーンの熱量が半端ない。レティーシャ・ライトこんなに演技出来るのか。王道BLM映画で印象には残りづらいものの、実話ベースということもあり十分観る価値アリ。マックィーン監督ゆえ心配していた白人救世主色も抑え目で安心、Amazon資本だとやはり自由に描けるんでしょう。

"Lovers Rock" ★3.9
黒人たちのパーティでの一夜を描いた作品。シリーズ中でもやたら高評価。恋愛モノと聞いていたら、9割ぐらいパーティでヒャッハーしてる。一般のクラブが白人限定の娯楽施設だった1981年当時のイギリスの状況を鑑みると、こうしたハウスパーティがいかに彼らにとって重要だったか。パーティのシーンは本当にそこにいるような感覚で、黒人文化の一端に浸れて超楽しい!贅沢に長回しのカットを使う辺りは同監督の「ハンガー」を思い出す。"Mangrove"の王道な作風とは対照的に、インディペンデントっぽさを残しつつクセの強い今作こそ至高の映画体験。

"Red, White and Blue" ★3.9
NBPA(全英黒人警官協会)創設者の一人リロイ・ローガンの伝記映画。ジョン・ボイエガ回。リロイが警官になるまでの過程と不当な差別に見舞われた最初期の活動がメインでした。リロイ・ローガンEP0みたいな感じ。まずリロイ氏が元々理系の研究者だったことに驚く、そこから警察官って凄いキャリア。研究室で彼が白人相手に教える場面もあって、この辺の差別の色はそれほど強くなかったんでしょうか。警察署内でのいじめや偏見は英社会の黒人差別がギュッと凝縮。リロイを広告塔に使いながら一貫して「特別扱いは無い」というスタンスを強調する長官、いじめを検知しない小中学校の校長みたいですね。70分ちょいと観やすい作品ですが、もっとリロイ氏の活躍を知りたいし、続編が観たい。SWキャストが出るとこの手の作品でもSWネタが出てくる。

"Alex Wheatle" ★4.0
親が死別し孤児院や養家を転々としながらやがて黒人運動に参加して逮捕される……という苦労を強いられた作家アレックス・ウィートルの実話がベースのお話。まともな教育を受けられず、世間に順応し切れないままどうにか生きていこうとする彼の姿が辛いのですが、他の作品と同様に前向きな展開で、ウィートル氏EP0みたいな話。黒人移民をリアルに描いた作品としての価値は勿論、人生を模索しながら成長していく主人公の成長譚としても良い作品。刑務所での出会いが人生の転機になるというショーシャンク的展開は胸熱。

"Education" ★4.2
移民の子供たちの教育水準の遅れをテーマにした作品。一番実話ぽかったけど完全フィクションらしい。識字能力以外は普通の黒人少年が発達障害の子達が集まる学校に入れられるところからの問題提起。当時の黒人の親世代は当然教育を受けていない純移民やブルーカラーが多かっただろうから、この問題にまず気付き、どう対策を取れば良いのかを考えるに至る道程は相当厳しいものだったんじゃないか。80年代の話だけど、今も教育格差は現在進行形の問題だと思うし、あえてフィクションで作った点にマックィーン監督の強いメッセージが伝わります。
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