梅田

スモール・アックスの梅田のレビュー・感想・評価

スモール・アックス(2020年製作のドラマ)
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カリブ系移民のコミュニティとして愛されたレストランに集う黒人たちの戦いを描いた第1話「マングローブ」。黒人差別といえばアメリカ映画では無限に描かれてきたテーマだけどイギリス映画ではたぶん初めて観たと思う。前半は警察の横暴が何度も繰り返されるばかりでちょっと退屈もしたけど、後半には『シカゴ7裁判』の英国版のようなコート・ムービーになる。そこからはずっと面白いんだが、特に最終弁論から評決までの全てのシーンが素晴らしかった。主人公のひとりであるフランクが根元ギリギリまで煙草を吸うシーンのクローズアップが超かっこいい。

第2話「ラヴァーズ・ロック」は移民たちのパーティで熱狂する若者たちの一夜を描いたエピソード。タイトル通りラヴァーズ・ロックでカップルたちがしっとりと絡み合い、「Kung-Fu Fighting」でブチ上がり、一番深い時間はダブでトランスする、そんな姿を至近距離のカメラの長回しで撮り続ける。世の映画にパーティの名シーンは数あれど、こんなにも親密さと熱狂を見事にキャプチャーしたものはそうないと思う。ちなみにデニス・ボーヴェルも出てた。ストーリーなんて無いに等しいと思いきや、最後はめちゃくちゃ甘くてキュートなオチもあって最高。

第3話「レッド、ホワイト&ブルー」では雰囲気が一転。人種差別の横行する警察を内部から変革したいと意気込む若い黒人警官(ジョン・ボイエガ)の苦闘。フッドの住民たちからは裏切り者扱い、同僚の白人警官たちからは遺物扱いでやり切れない思いばかりの観ていて辛いエピソード。スターウォーズネタだけちょっと笑った。

第4話「アレックス・ウィートル」・第5話「エデュケーション」には共通するものがあった。自分達の歴史を自分達で紡ぐこと。ちょっと説教くさいテーマではあるけど、童話作家や子どもの視点を通して、あるときはリリカルな描写で、あるときは現代に透徹した視点から、イギリスのカリブ系移民の姿を映し出す。

シリーズを通じて、カリブ音楽の素晴らしさが全体のクオリティを底上げしていたのは間違いない。スティーヴ・マックイーンの一世一代の大仕事だと思う。TVドラマと映画との境界線に立って、やりたいこと全部やり切った大作。あえて好きなエピソードに順位をつけるとすれば2→1→5→3→4って感じだけど、どのエピソードも相当良かったし、どれから観てもいいと思う。
梅田

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