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仮面ライダーBLACK SUNのkirioのレビュー・感想・評価

仮面ライダーBLACK SUN(2022年製作のドラマ)
3.9
差別や政治組織と戦う仮面ライダー

もとより怪人=殺人・人体破壊のメタファー
ライダーの敵は社会悪
そして、孤独のヒーローである
 新しいとは言わない、ただ石ノ森章太郎から平成ライダーまで、「仮面ライダー」の背後に見え隠れしていたテーマをはっきさせた功績が、今回の「BLACK SUN」だ

STORY
 バッタが飛び交う日食の晩、兄弟同然に育った南光太郎と秋月信彦はある手術を簿どこされた
それから半世紀以上、日本は人間と怪人という二つの種族間の瀬戸際に立たされていた
しかし、日本政府の実態は、怪人によって構成された宗教政党「ゴルゴム党」の隠れ蓑となっていた
彼らは謎の怪人「創世記王」の恩恵にあやかることで、生きながらえてきた
 一方で、国内外で多くの怪人が人としての権利を訴える中、差別的な右翼集団との抗争は激化していた
 
 怪人との共存を呼びかける少女 葵が、ゴルゴムの怪人に狙われたその時、黒いバッタ怪人ブラックサン=光太郎が現れる
 時を同じく、ゴルゴム党に幽閉されていた銀のバッタ怪人シャドウムーン=信彦も目を覚ますのだった

 やがて二人の再会は、50年前のゴルゴム結成に隠された若者たちの戦い、そして、怪人のルーツへと繋がっていく


「仮面ライダーBLACK SUN」の物語は、多くのモチーフによって支えられている
その一つが、50〜70年代の左翼運動と、その映画だ
 50年前の1972年、怪人の権利のために学生間で結成されたゴルゴムのモデルは、やはり安保闘争の際に現れた「全共闘」だろう
また安保闘争を題材に、闘争の時代と現代の二つの時代を結ぶ形式は「日本の夜と霧」
そして、次第に崩壊していく左翼組織とその内ゲバの様子は、70年代の連合赤軍を思わせる
 また旧日本軍による人体実験の告発は、「海と毒薬」に近い
監督の白石和彌は、邦画界のトリックスター若松浩二の元で学び、「狐狼の血」など古き日本映画の勢いを感じさせるバイオレンス映画を撮ってきた。改めて「仮面ライダー」の物語を紡ぐために、数多くの邦画を下地にしたのだろう

 一方、差別問題に関しては、特撮史上、非常にデリケートな部分に手を伸ばしたように思える
アメリカをはじめとする人種問題やレイシストの暴動をベースにしつつ、その至る所に「朝鮮」のモチーフが重ねられていた
 登場人物の中心となる、市民の怪人たちが暮らすのは大阪 鶴橋を思わせるアーケード街だ
そして、その至る所に「キムチ」や「チマチョゴリ」が添えられているのも意図的だろう

また政党と宗教という問題に関しては意図せず、現実と重なった部分がある
対して内閣による憲法の改正や軍備の強化には、明らかなモチーフを感じる

このように、「仮面ライダー」の物語をポリティカル・クライムの邦画の集結、そして、「怪人の青春群像劇」として昇華させた本作だ

特撮がドラマとして認められるためには、やはり社会問題のテーマが欠かせない
過去の「ゴジラ」や「ウルトラマン」が評価される理由の多くもそこにあり、近年のリメイクでも強調された


 では、特撮としての「仮面ライダーBLACK SUN」はどうだったか?
ドラマ面では以上の通りに、ヒーローと社会を融合させた良い作品だったと思う

ただアクションに関しては、物足りなさもある
今回、アクション監督には白石和彌とタッグを組む吉田浩之を起用した
邦画らしい、リアル寄りのアクションを得意とする吉田に頼むことで、普段の特撮とは違う絵作りを目指したのだろう
しかし、結果として、着ぐるみアクションには合わない感があった
パワー表現が、薄くあまり凄みやらスピード感は感じられなかった

 また近年の白石和彌の多作ぶりからも、作り込み以上に勢いが挙げられる
また予算的にも本作が、映画並みの潤沢とはいかないように思えた
故にアクションや造形に関しても、大技や見栄を切る絵作りを避け、小スケールになった感じが否めない

またデザインワークスに関しても、樋口真嗣や田口清隆のアートワークが良かったとは、あまり言えない
こちらも予算的なものがあるのだろうが、メイキングのイメージボードを見ても、そんなり魅力的ではない『デビルマンのデーモンのような)

また主演の西島秀俊に関しても、役以上にくたびれた感じがした
その点、シャドウムーン=信彦を演じた中村の方が、キレ・凄みのあるキャラクター造形になっていた

一方、原作では残念な聖剣ビルゲニアの役割が、魅力的に強化された
まるで「仁義なき〜」の一キャラクターのように、見窄らしくかつ生き生きとした造形になっていた


邦画要素を抜きにして、特撮ドラマとしてのストーリー構成には満足だ
それは同時に、改めて原作「BLACK」の現代につながる強い構成を思わせる
漆黒のヒーローと、グロテスクなクリーチャー
大人によって仕組まれた非道の運命
反旗の主導者として、ヒーローの認知
二人の若者、仮面ライダー?の対決
完成形とは言えないが、ビジュアル・ストーリー共に、これまでの「仮面ライダー」とは一線を画す内容だ

また忘れてはいけないのは、石ノ森章太郎による漫画版の「仮面ライダーブラック」だ
追われる主人公、破滅的な自信と友人の未来像、時空を超えた戦いなど、
こちらではより絶望的な世界観が描かれている

また「仮面ライダーBLACK」の下地が、後の平成仮面ライダーの基礎になることもわかる
「ブラックRX」以降、「真」「Z O」「J」と「ブラック」をベースにした世界観が繰り返された仮面ライダーだが
再びのその流れを変えたのが、平成仮面ライダー第一号「仮面ライダークウガ」だ
敵の存在は社会組織ではないが、シリアスな対決ドラマ、ラストへの盛り上がりと、ラスボスとの頂上決戦の下りは「ブラック」の秀逸な踏襲と言えるだろう
プロデューサーを務めた高寺成行は、「ブラック」時には、プロデューサー補を務めていたことも関係するだろう

では、この「仮面ライダーBLACK SUN」、あえて類似作をあげるなら?
そるは2004年の「仮面ライダーファイズ」だろう
シリーズでも随一の暗さを誇る「ファイズ」だが、その主軸は「人間とオルフェノク」、二つの種族の共存と対立だった
大企業「スマートブレイン」が隠れ蓑となり、密かにオルフェノクによる被害が広まっていくストーリーでもある
特に劇場版では、オルフェノクに支配されたデストピアが描かれ、消えたヒーローの復活劇があった
 またTV版のラストにおいても、眠れる王「アークオルフェノク」の有り余る力と自我を喪失した存在は、創世王に告知している

またキャラクターの扱い、流れ、セリフ、見せ場などは、良い塩梅で原作へのファンサービスになっていた(バトルホッパーを除いて)

感想として、期待を大きく裏切らない出来栄えだった本作
 気になるのが「シン・仮面ライダー」だ
庵野秀明がメガホンを取るこちらでも、初代ライダーのTV版、漫画版をリスペクトした作品になるようだ
しかし、今回の「BLACK SUN」も、実質 初代ライダーのリメイクといっても過言ではない
何せ、原作 石ノ森章太郎版「仮面ライダー」のショッカーは日本政府そのものというオチだ

果たしなどう折り合いをつけるのか?

ますます「シン・仮面ライダー」への懸念・期待が広がる感想でもある
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