夏藤涼太

ラストマン-全盲の捜査官-の夏藤涼太のレビュー・感想・評価

ラストマン-全盲の捜査官-(2023年製作のドラマ)
4.3
#1話
日曜劇場らしいベタな作りだが、さすが現代邦ドラマのミステリー・サスペンスの名手、黒岩勉。時代性を伴ったシナリオが素晴らしいです。
そして福山雅治と大泉洋で当て書きしたような台詞回しが最高。イケメン人たらしだけど下心アリアリのヒーローって、まぁ福山雅治にしかできんわな。
「M-1出ませんか?」はわろた。局違うし絶対アドリブだろ

#2話
正直トリックや犯人については、ミステリオタク的にはすぐにわかってしまうのだが…ホワイダニットが非常に秀逸
1話の犯人の生い立ちと時代性との関わりや、今回の快楽殺人者の生い立ちという点から見ても、「全盲の捜査官」というのはあくまで表のテーマで、黒岩勉の描きたい本作の裏テーマは「正義と悪」「犯罪心理」にあるのでは?だからこそ、護道心太郎の父親が殺人犯で、違法捜査しまくるキャラ付けになっているわけで…

サラッと流されていたものの、今回の新たな被害者は、護道の違法捜査と恫喝がなければ死ぬことはなかった。大泉洋は犯人ではないが、間接的な人殺しと言ってもいい
この辺りの問題が、テーマが深掘られるであろう後半で焦点が当てられることになるのか気になるが…こっち寄りにすると刑事ドラマとしてのエンタメ性は薄れるからな、日曜劇場じゃ厳しいし、匂わせる程度になるかも

#3話
今回が一番面白かった。1、2話で、これは全盲捜査官という斬新な探偵やトリックよりも、ホワイダニットに一番重きを置いているドラマだろうと思ったが、今回の動機はお見事と言いたくなる切れ味だった。とはいえ刑事役のイメージを壊されてはいくら情状酌量の余地があっても役者生命終わりでは?と思うなど、強引さを感じなくもないが、それでも時代性と社会性を踏まえた斬新な動機に唸らされた。

#4話
回を追うごとに面白さを更新してる。痴漢冤罪という現代的なテーマと毒殺による連続殺人という古典的な題材を組み合わせて、ここまで新しい事件を作るとは。嫉妬が止まりませんわ…

真相には無理くり感はあるものの、胸熱シーンでは涙がもれてしまうし、ギャグシーンではしっかり笑っちゃうしで、キャストと演出の良いいので重箱の隅をつつく余裕がない。虹、聞きたかったな…

何より今回は黒岩勉の前作の日曜劇場『マイファミリー』から消えていた「黒さ」がバッチリ出てたのが良かった。実績が認められたのか、こんな救いのない事件を日曜劇場が許すとは…

#6話
マイファミリーの10話を1話に凝縮したようなどんでん返しの連続で面白かった。黒岩勉なりのリベンジか。やはり誘拐もので1クールというのは無茶だったのかもしれんな…
テーマ性もバッチリだった。親ガチャ連呼はちょっとやりすぎな気もしたが、枠的に仕方なかろう。それよりも「人生はガチャの連続」という回答がよかった
福山雅治の福山モノマネは草

#10話(最終話)
ミステリーとしての出来はもちろん、笑いあり涙ありで日曜劇場としても大満足のクオリティ。同じく黒岩勉の #マイファミリー は面白かったものの、やはりミステリと日曜劇場の掛け合わせに失敗があったように思えたが、文句なしのリベンジを果たしたと言えよう。

とんでもなく複雑な話だけど、中心のトリックはシンプルなので、ちゃんと邦連ドラとして成立している。京極夏彦の百鬼夜行シリーズを彷彿とさせるクオリティの複雑さと鮮やかさだった。やっぱり黒岩勉は今の邦ドラマ界ナンバーワンのミステリー作家だわ

2話で、「盲目の捜査官」というテーマはあくまでもフェイクで、黒岩勉が本当に描きたいテーマは「正義と悪」「犯罪心理」にあると書いたが、その考察は見事に当たったらしい。最終2話とか、盲目要素ほぼなかったもんね…
爆弾やバスジャック等、刑事ドラマとしてのベタな題材を前半ではベタに解決し、後半で、凝った動機や現代的な動機で善悪をひっくり返し、ベタな題材でありながら、見たことのない展開にもっていく。
最終話なら、それこそ #エルピス みたいなベタな政治家と警察上層部によるベタな冤罪事件と見せかけて、本当は昼ドラ的真相だったように。ミステリ初心者はトリックや犯人当てを楽しめ、ミステリオタクは本歌取りの仕方やホワイダニットを楽しめる、なんとも上質な作り。
またメインの謎解きはやりすぎなくらい説明しまくるけど、たとえば心太郎が実は父親と同じ行動(愛する人のために恋人を突き放す)を取っていたという細かい伏線はわざわざ説明しておらず、非常にスマートだった。

ところで #ラストマン ではいわゆるイケメン俳優が勢ぞろいしていたわけだが……結局、津田健次郎が一番イケメンだったな…ここまで顔と声のイケメンっぷりが一致している役者も珍しいよね
夏藤涼太

夏藤涼太