CureTochan

VIVANTのCureTochanのレビュー・感想・評価

VIVANT(2023年製作のドラマ)
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一話を観てから2週間が経過し、誰も続きを観ようと言わないのでこのままになる気がする。冒頭、どうやら海外ロケをしているようなんだけど、カメラが微動だにしないので合成なのかもしれず、判別がつかないし、状況も分かりづらいしでストレスになった。たとえば20度ほどでも、カメラをパンニングしたり、最初から手持ちで撮ったりすればこのフラストレーションは軽減できる。一番いいのは最初のショットから180度、反対側の景色を映すことである。「アイアンマン」でトニーがジェリコミサイルをプレゼンするシーンでは、砂漠と山を後ろにしたトニーから、向かい合う軍人たちのショット、さらに遠景ショットが挟まれ、彼らのいる場所がわかる。本作ではロケハンの限界で、反対側は絵になるような景色じゃなかったのかもしれない。しかしエピソード全体を見終えてみると、別の場所でもいいからハメ込んでそういうショットを用意するというセンス自体が、制作側になかった感じがする。カメラからは、フォトグラファーとしての頑張りしか感じられなかった。

だがうちの娘たちが興味を失い、もうネタバレサイトを見ようかなと言い出した理由はそこではなく、シンプルにドラマが退屈だったからだろう。堺雅人さまが二重人格みたいになって自分と会話しながら、砂漠を彷徨う。それだけ聞いたらすごく面白そうな設定だが、そのセリフに知性も個性もウィットも感じられず、真顔で観ることになる。設定だけはだんだん派手になり、ものが破壊されたりするが、まったくドラマは生まれず、金のかかった「南極料理人」といったところ。たとえば主人公を追いかける警察の男なんて、もっといろいろやりようがあるだろうに、終わりまで何もない。そのわりに画面に映っている時間が無駄に長い。話が面白くなくても、会話は面白くあってほしいのだ。最後にどんでん返しがあるのかもしれないが、そこまで客を引っ張るのも作り手の仕事。ちょっと前に「最愛」なんていうミステリドラマがあったけど、ちゃんと毎回が面白かった。

面白くない理由の一つは、キャラクターに奥行きがないからだ。あの警察からの追っ手の男に妻子がいて、その家族との朝の会話なんかを描写する。もめたりもしつつ、普通の家族である描写だ。そして家から出て、職場へ向かい、主人公たちの起こした面倒にうんざりした顔を見せつつ、出動する。これで舞台となった国の普通の生活もわかる。仕事が片付かなくて帰れないイライラが笑いを生む。例えばそういうことだ。いろんな向きから見せることが大事なのはカメラワークだけではない。

堺雅人さまは、語学の才能だけはまったくないんだから、優秀に見せるなら無理して喋らせる必要なかった。ていうか優秀さも芝居からは伝わらなかった。阿部寛は相変わらず大根だし(ちゃんと演出されてないのだろうが)、二階堂ふみちゃんだけが文字通り、砂漠のオアシスだった。逆に、客が面白いと思うような芝居を作れば、おのずとキャラに奥行きも生まれるのである。ミステリ的な理由で描写できない部分はあるだろうけど、うまくそうでないところで奥行きを作るのも手管のうち。「どんなに恐ろしい武器を出しても、どんなにかわいそうなクルマたちを破壊しても、人が面白くなければ大人が楽しめるドラマにならないのよ!」とシータなら言うだろう。ブレイキング・バッドとか見てないのかしら。

オチがどうなったかは、きっと娘から聞かされるだろう。ドラマというより「10話後に意外な結末」パズルなんだろうし・・
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