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BEEF/ビーフのごnのレビュー・感想・評価

BEEF/ビーフ(2023年製作のドラマ)
4.4
これは面白かった。
一話が短くて10話なので、サクサク観られる。

キャストはほぼアジア系。スタッフもそうらしく、そのこと自体が革命ということで話題になってるようやが、そんな難しい文化的なことは抜きにして面白い。

脚本がとにかく良くできてる。
良くあるっちゃある公式。
些細なことが発端になって、赤の他人がつながり、雪だるま式に転がってゆく。歯止めが効かない。
というパターン。
一見、ガサツな感じの話なのに、公式に則って、とても丁寧に構成されていて、テンポもよく、何より緩急のつけ方が圧巻。天才かよ、です。

しかも、ライトタッチなのに、話の本質が深い。
サスペンスコメディかと思って観てたら、最後、うっかり感動。
泣くというより、沁みる。
オトナがやるとは思えない、稚拙な嫉妬やら欲やらの、しょーもない小競り合いを観てたつもりが、結局、共感度が深くて、ざっくり刺さってしまった。


役者も良い。
主人公二人の、どう足掻いても清算できないモヤモヤやフラストレーション。行きつ戻りつする主体も対象も明瞭なようで漠然とした怒りと許しと憎しみと優しさとの間で揺れ動く感情の機微が凄くよく出てていて、思わず演者と一緒に溜息をついたり、舌打ちをしたくなる。

人間誰しも人には言えない部分がある。家族だからこそ、愛する人だからこそ、見せたくない部分がある。
闇というより恥部。自らを恥じている部分。でも、そこにこそアイデンティティがある。
そうすると、誰にも本当の自分は見せられてない。だから、誰も本当の自分を知らない。
だから、全部嘘くさく感じる。
自分が晒してないから当たり前なのに、分かり合えない、通じないことに苛立ちを覚えて、また、そんな自分を責める。
人に囲まれた状態での孤独ほど辛いもんはない。
でも、自分は、恥部を隠して武装して、孤独の中、一生懸命、家族のために奮闘している。
なぜ、報われない?なぜ、満たされない?なぜ、すくっても、すくっても流れてしまう水のように、手にしたものは全て消えていく?
何か、我は、そんな悪いことしたか?
本当に全部自業自得か?
世の中のせい、時代のせい、育った環境のせいにするのは、卑怯なのか?オトナげ無いのか?

イーッてなる。何やねん、なんでやねんっっ!ガッデム!

この隠してる恥部が根源なのはうすうすわかってる。
アカの他人には話せるとは言え、カウンセラーにも結局はうまく話せないし、話したところで壁打ちで共感はない。
愛する人に観念してゲロってみたものの、理解を得られない。言わんこっちゃない、だ。

だからこそ、恥部を見せられて、同じ恥部を持ち、共感できる他者は、貴重過ぎるし、人生で一人、出会えるかさえあやしい。
出会えたら奇跡。
でも、奇跡ではなく、おそらく、見せる勇気と覚悟が自分にあれば、実は周りにいっぱい転がってるのかもしれない。
でも、それが難しい。

ラストシーンのエイミーの無言の気持ちに胸が熱くなった。

表向き、明るく、人付き合いもよく、親兄弟、家族とも仲良く。
でも、ふと、
ともだちって何?
いないかも…。
家族にも、本心は見せてないし。
誰も本当の自分のことはわかりよーもない。
ってなってしまうような、隠れ孤独人、には刺さるんじゃないだろか。

素直に生きるって大変やな。

って書くと重たい感じやが、基本は、軽妙なタッチで、滑稽で、最終話でさえも最後の最後まで、楽しめる。

これはいつかまた見直したい。
自分の年齢や状況で受け止め方が変わる小説みたい。な、作品でした。
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