Longsleeper

不適切にもほどがある!のLongsleeperのレビュー・感想・評価

不適切にもほどがある!(2024年製作のドラマ)
3.9
「安心しろ。お前らの未来はおもしれーから(※みんなが寛容になれれば多分さらにもっと)」に行き着くのかな。
コメディとしてホームドラマとしてめちゃくちゃ面白かった。
小ネタが冴え渡るクドカン節。
最終回、伏線をもろもろ回収しつつ人生の最終回については結論出さなかったのは、「ドラマも人生も、終わる手前までとっ散らかったままでいい」を体現していた。

渚と純子のやりとりは随所でグッとくるし、市郎が妻子を大切に思ってることが全編通じて伝わってくるのも良かった。
純子のツッパリ方がなんか妙に愛おしいなあと思ってたら、親心ならぬ子心だったのか、というところもナイス。
ジジイ金くれでお小遣いあげちゃう地獄のオガワ笑
仲里依紗はキレ芸が似合いすぎる。
磯村くんコメディでこんなに輝く人だと初めて知った。
河合優実ちゃんの存在感が唯一無二。

昭和と令和のギャップの中でも特大のトピック「育児」を解消するために小川家は父子家庭になったんだろうな。
さすがに育児参加ゼロの父親じゃ2024年に受け入れられないから、娘とコミュニケーション取れてても違和感ない存在にするために。
昭和人への数少ない共感ポイントに「結婚だけが幸せじゃないって言うけどな、じゃあ結婚しました幸せですって言っちゃいけないのか? 俺は幸せだったよ、カミさんと結婚した時、娘が生まれた時。叫びたいほど幸せだった」があり、これも設定の妙でしっくりくる。
この時代の日本人男性がこんなこと素直に言ってくれるのか?と思うんだけど(あんな歌がヒットしちゃう時代に……)、相手が亡き奥さんだと納得してしまう。
とは言えそれだけじゃなく、「いないけどいる」奥さんの存在感が優しく、すごく温かかった。

一方で昭和と令和の比較や、令和の問題意識については切り取り方が雑だなと思うこともしばしば。
それこそコタツ記事並みに極端な切り取り方のところない?
とくに9話はもやもやした。。。
後輩が明らかに奇天烈な主張してるし、ハラスメント告発が全部こんなんなわけないし。
理不尽に耐えずにちゃんとハラスメント告発できる社会になったメリットのが大きいと思ってるので、なんでもハラスメントに仕立て上げる社会はどうなの、みたいな描き方に納得いかず。
じゃあセクハラパワハラなんでもありだった昭和みたいな場所に子どもたち送り出したいか? 私は嫌だわ。
もちろん、たんに昭和が良かったと主張したいわけじゃないのは最終回の市郎のアップデートぶりを見ればわかるけど。
復帰飲み会と、その後の栄さんとの通話めっちゃ笑った。
ラヴィット見ながらサラダ軍艦。

昭和から改善を重ねてアップデートしてきたつもりが、令和には色々新しい生きづらさが……というのはわかる。
でも改善したと思ったら新しい問題が出てくるのって何ごともそうじゃないか?
それを何とかしようと修正アップデートを重ねることが大事なわけで、昔は良かったとか思考停止しちゃそこでおしまい。
過去と現在比べてどっちが良いじゃなく、さらに新しいものを探るのは創作の役割と思うけど、昭和のがいいと誘導された感じのとこも時々。
たぶんテレビマンたちはそう言いたいのでしょう。
昭和平成の時代にうけた暴力やハラスメントを令和にやっと告白できた人もたくさんいる中で、懐古には加われない。
やっぱりこんな痛みに耐えるだけなんておかしいと思った人がたくさんいたから、世の中が変わることを選んだはず。

いろいろ言うものの「寛容になりましょう」のところはいいと思った。
昭和では「若い女はお酌しろ」「男たるもの女子どもに言うこと聞かせるもの」といった固定観念の押し付けがあったけど、人間を縛る基準が「みんな平等」「多様性侵害反対」に置き換わるだけじゃだめだ、と思わされる。
基準が進歩しても、それを盾に責め合うだけになっては意味がない。
戦前→戦後の変化と比較してしまう。
子どもに教えこむことが「一億玉砕」から「戦争ダメ絶対」になっただけ。
戦争しろって言われて従う兵隊じゃなく、自分の頭で考えられる人間づくりをしなきゃ、っていうドイツみたいな方針転換にはならなかった。

あと脚本家やテレビマンがふつーの会社員の生活を描くことの限界を感じた。
保育園入れないのは旦那の育休が理由なら、旦那が家で育児すればいいのでは……という矛盾。
育休中に働くな。
あと序盤の秋津くんのくだりも「叱ってほしかった」なんてあるかな……謎。
こういうディテールは経済小説原作でもないと無理なんだろう多分。
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