みとも

わたしを離さないでのみとものレビュー・感想・評価

わたしを離さないで(2016年製作のドラマ)
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海外文学の日本での映像化自体は昔から伝統としてあって、わりと定点観測的に見るのですが、その中で最も素晴らしいのはやっぱりドストエフスキーを映画化した黒澤明の『白痴』。ムイシュキン公爵役の森雅之も完璧なまでにあの「白痴」を演じていたし、ロゴージン役の三船敏郎も相変わらず荒々しい男を怪演していたけど、何といってもやはりナスターシアこと那須妙子(!)役の原節子がすごい。小津映画で良い娘さんの印象が強いけど、ドストエフスキー的な高慢ちきなロシア女(この映画では北海道だけど)を完璧に演じている。海外文学マニアでもある黒澤明は『蜘蛛巣城』で「マクベス」をやったり、『乱』(つまんないけど)で「リア王」をやったりと、シェイクスピアを戦国時代に置き換えて映画化したりもしてますよね。ゴーリキーの『どん底』もね(まあ見てませんが……)。
最近でも山Pが『アルジャーノンに花束を』をやったり、フジの土曜の夜にやってた『カラマーゾフの兄弟』もなかなか悪くなかった。ニルヴァーナのSmells Like Teen Spiritは今ひとつ文脈に合ってない気もするが、ドアーズのThe End、ピンク・フロイドのAnother Brick In The Wall Part.1といった父殺し/父が死ぬというテーマに因んだロックの名曲がかかるのも個人的にはGood!ストーンズのPaint It Blackがかかるのは、「カラマーゾフ」というのがロシア語で「黒」と「塗る人」を合わせた名字だからでしょう!このチームで『罪と罰』とか『悪霊』とかもやってくれないかなぁ……。
だから、(今となってはノーベル賞文学作家の)カズオ・イシグロを日本でやるってのも出来なくはない。綾瀬はるかというネームバリューもあるしね。
しかしながら、これ、後から原作読んだんですけど正直ドラマの方が面白いです。第1話の子役たちの演技の凄まじさ。綾瀬はるかの子供時代の鈴木梨央ちゃんはこれで名前覚えたけど本当にすごい。昔の特撮映画なんか見ると子役が本当に棒読みでまさしく「学芸会」なんだけど、今時の子役たちは底上げされすぎて末恐ろしくなるレベル。やや自閉症というか発達障害気味の三浦春馬幼少時代を演じた子もすごい。それから大人チームもすごくて、子供達に外の世界を教えようとして結果的に頭おかしくなっちゃう伊藤歩(『リリィ・シュシュ』で丸坊主になっていたあの女性!)だったり、超偽善的で子供達の生命を完全に美化しきった演説を第1話で行う校長役の麻生祐未。
生まれてきたことへの疑問や怒りを、モロにかつての学生運動や昨今の学生主体による社会運動風に見せる中盤の展開。あんな女性キャラ、オリジナルの原作にはいなかったですよ。日本国憲法に記載された基本的人権の尊重を綾瀬はるかに見せるのも痛烈なメッセージですねえ。原作はイギリスが舞台ですから、イギリスの人権宣言でも載ってるのかなと思ったんですがこんな場面自体ありません。それに「私たちは家畜じゃない!」って、お前それエレン・イェーガーかよ!前述した伊藤歩の、「寄宿学校の壁の外にはあなたたちか知らない世界が広がっていて……」的なセリフも『進撃の巨人』風だし。そう考えると三浦春馬は実写『進撃の巨人』でエレン役を演じてもいるんだよなぁ……。
原作よりも、「なぜ生まれてきたのか?」ということへの疑問や怒りといったテーマが明らかに意識的に増幅されています。原作の登場人物たちはそこにほぼ疑問を持ちませんから。ある意味クローン人間の人権はどうなるんだ、っていう問題であって、そういう意味では単なるおとぎ話やサイエンス・フィクションというよりも、現代的なテーマですよね。大人になって寄宿学校を卒業して共同生活を始めると、酒やタバコをやったり、同居人とのセックスに耽るのなんか『スカイ・クロラ』っぽいなぁという感じ。ある意味綾瀬はるかたちは『スカイ・クロラ』のキルドレですよね。でも押井さんは基本的に「人間ドラマ」なんて描きませんし、(森博嗣の原作は置いておいて)あれは押井的な静謐でゆっくりとした演出以前に、明らかに脚本に問題があるので、こちらの方がむしろちゃんとしたドラマになってます。中盤の活動家の場面は、むしろ『スカイ・クロラ』の元ネタとされる永井豪の短編漫画『真夜中の戦士』の怒りに近いです。
押井守といえば、このドラマ版『わたしを離さないで』の登場人物たちって、むしろ押井さんも『イノセンス』で丸パクリした『ブレードランナー』のレプリカントですよね。つまり遺伝子工学によって造られた人造人間の限りある生を通して、人が生きるとは何かということを問うてくる。かなり興味深く見ていたのだが、最終回だけつまんなかったな……
そういえばこの劇伴を書いてるのは近年の佐藤信介映画で超かっこいい劇伴を作っているやまだ豊さんらしいです。印象に残るメインテーマでしたね。
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