諭志

クジャクのダンス、誰が見た?の諭志のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

第1話。亡くなった父・春生(リリー・フランキー)の遺言通りに奔走し、疲れ果てた心麦(広瀬すず)の前に、昔の記憶とともに現れた春生。彼の表情や声色、言葉の端々から、どれほど心麦を愛しているのかが伝わってきました。そこには父性だけでなく、母性のような温かさも感じられ、それがどれほど心麦を救ったのかがよく分かります。そして、松風(松山ケンイチ)の登場。人として少し変わっている部分はあるものの、依頼人の言葉に真摯に向き合う姿勢に感銘を受けました。どうすればいいか分からず泣き出しそうになっていた心麦にとって、あのタイミングで現れた松風もまた、救いとなったに違いありません。

父親の娘への愛情と、弁護士が依頼人に向ける思いはまったく異なりますが、どちらも確かに心麦を救っています。誰かがいなくなれば悲しい、立ち直れないほどに。しかし、残された人々には新たな出会いがあり、支え合うことができる。残された者は、そんな人々と再び巡り会えるのです。そう思わせてくれる、最高のスタートでした。

冤罪という非常に繊細でありながら、誰もが等しく嫌悪すべきテーマ。松風の「1人の冤罪を生むくらいなら、10人の真犯人を野放しにしたほうがいい」という言葉が象徴するように、一度疑われた人間がどれほど過酷な道を歩まされるのかが、痛いほど伝わってきました。「疑われたということは、何かしら悪いことをしたのだろう」___そんな決めつけが横行する。その醜さ、恐ろしさがひしひしと伝わってきました。

第2話では、遠藤家の暮らしが描かれます。友哉(成田凌)の境遇があまりにも悲惨で、胸が苦しくなりました。母親が出ていき、父・力郎(酒向芳)が逮捕されてから、周囲の人間の残酷さにさらされ続ける友哉。刑事は「こんな親を持って」と言い放ち、記者は泣く子どもを前にしても何の感情も抱かない。被害者家族の支援は当然ですが、それと同じくらい加害者家族への支援も必要だと痛感しました。しかし、日本は加害者家族への支援が極めて不十分です。加害者本人は警察や検察、刑務所によって保護されますが、残された家族は矢面に立たされます。そんなことがあってはいけないと思います。そして、彼らを責め立てるのは、ほとんどが事件とは無関係の第三者たち。関係のない人間が、なぜ加害者家族を攻撃するのか。怒るべきは加害者本人であり、事件そのもののはずです。

本作は、捜査機関のあり方を問う作品でもあります。「こいつは前科がある」「こいつは死刑囚の息子」___そんな理由だけで、本来できるはずの捜査ができなくなる。常に公正であり続けることは難しいかもしれません。しかし、疑われた人間は、人生を、時には命をも奪われる可能性がある。その重さを捜査に関わる者は常に自覚しなければなりません。

第7話では、私たちにとっては愛の証明でもあるようなビデオが登場しました。ただただ感動しました。しかし、心麦にとっては、自分の存在や考えを否定されるような映像だったはずです。「知ってしまったことを、もう後悔しそうです」と口にするほどの衝撃だったのだと思います。

辛いことがあるたびに、そばにいてくれる。お茶を買ってきてくれる。ハンカチを渡してくれる。残ったオムライスを食べてくれる。そんな松風の存在に、私も救われています。心麦がひとりで抱え込んでしまうこと以上に、辛いことはありません。

第8話。松風と父の再会。それだけでも何とも言い表せないほど嬉しい気持ちになりましたが、最後は特に良かった。心麦が松風から多くを受け取っているように、松風もまた、心麦から多くを受け取っている。そして、それは確かな形で彼の中に根付いている。心麦が父を信じる気持ちが、松風の中にあった恥ずかしさや疑いを跳ね除けたのだと思います。人の優しさの巡りは、こんなにも温かいものなのかと、深く感動しました。

第10話。恭子さん(西田尚美)が認めた犯行のすべて___それは、あまりにも身勝手で、自分本位なものでした。今の生活や息子を守るためだったと説明していましたが、それが周りのためになるはずがない。周囲を言い訳にしないでほしいと思いました。

遠藤家が再び一緒にいられる世界で本当によかった。唯一、誰にも奪えなかったキャッチボールの思い出は、22年の時を経て、より輝かしいものになりました。友哉のあの綺麗な笑顔を見られたことが、本当に嬉しい。友哉の笑顔は、私にとってこのドラマを観る価値そのものでした。

そして、山下家の描写は美しく、心に残るシーンでした。春生の「お父さんをお父さんにしてくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう」という言葉。この物語を共に見届けた人にしか分からない感動がそこにあります。そして、心麦は「お父さんをお父さんにしてくれてありがとう」と言ってくれる人のもとで育つことができてよかった。心麦が心麦でいられるのは、たくさんの愛情を受けて育ったからです。

心麦が知りたかった結末は時に辛く、受け入れるのが難しかったかもしれません。それでも、すべてを知ったあとに春生を抱きしめたいと思えた未来だったこと。そして、松風がこれからもそばにいてくれること。それを知れたことが、もう幸せでした。最後まで見届けることができて、本当によかったです。
諭志

諭志