『素敵な選TAXI』で演出も担当していた筧昌也さんの関連作品にハマり、久々に鑑賞。
人生のムダを清算する生涯最後のひととき、それがロスタイムライフ……。
死の間際、人生のロスタイムを与えられた登場人物たちが、やり残したことを遂行するために奔走するSFドラマ。
死んだ直後に、突如として現れる数人の審判たちと電光掲示板をもった男。
かなりシュールな設定が頭から離れない名作。笑
筧昌也監督が手掛けたSFショートフィルムを原案に、1話完結のオムニバス形式として放送された連続ドラマで、豪華俳優陣の起用と幅広い題材が面白い作品だった。
大人になり、改めて観てみると、脚本のクオリティにムラがあり、設定や表面だけにとどまっている回も見受けられるものの、やはり「人生のロスタイム」という題材そのものの面白さを実感させられる。
思えば、監督が初期に手掛けた自主映画『美女缶』も、後に作ることになる映画『死神の精度』も、「命の期限」という題材が一貫しており、自分が監督の作品に惹き寄せられるのは、そういう部分なのだろうなぁと改めて考えさせられた。
以下、各話ざっくり感想。
第1節「カメラマン編」☆
出演:瑛太、吹石一恵
脚本:筧昌也、森ハヤシ
過酷な状況を撮ることに執着してしまった現場記者が、本当に大切なものは何かをみつける話。
物語の基本的な展開(妊婦と遭遇をしてやむ無く病院に送り届けるなど)は、原案となった短編第1作目を踏襲しているものの、カメラマンという設定によって、独自のエピソードとして完成された印象。
特に後半の心温まる切ない展開が秀逸で、「死」という命題を「生」を描くことによって、より深みを持って描いた部分は本シリーズの真髄ともいえる。
第2節「刑事編」◎
出演:小山慶一郎、平泉成、田中哲司
脚本:橋本博行
新人刑事が若さゆえの行動で死んでしまい、事件の犯人をみつけるために奔走する物語。
なぜか、シリーズを配信していた動画サービスFODにて、本作のみ配信がされておらず、違和感を抱きつつも、ネットで発見。実際に見てみると、主演・小山(NEWS)さんの演技が、あまりにも棒過ぎて、何となく納得。(まぁ、そもそも、ジャニーズ側が権利が、かなり厳しかったのかもしれないが……。苦)
刑事モノという設定自体が面白いため、シリーズでも随一の出来ではあるが、ラストの展開には何とも複雑な気持ちに……。
切ないエンディングが決まっているのは分かるものの、明るい作風ゆえ、もう少し救いのあるラストに出来たのではないかと、少し考えてしまう。
第3節「スキヤキ編」△
出演:友近
脚本:矢沢幸治
スキヤキの材料を買いに行く途中、事故に遭ってしまった母が、家族のために最後の買い物に文字通り命をかける回。
物語そのものは良いし、幼少期にみた頃はそこまで気にならなかったものの、改めて見てみると、シリーズ屈指のイマイチ回だった。
とりわけ、後半、家族の会話シーンの冗長さが否めず、ラストシーンもイマイチ感動しきれないというのが残念なポイント。
(特に、4人の食卓から2人だけを残し、1対1で順番に会話シーンを写し出すという気を衒った演出は、かなり滑っている印象も受けた。)
とはいえ、友近のハマり役過ぎる主婦役は、本作最大のみどころといえ、現在のカメレオン芸人としての原点が、そこにはあった。笑
第4節「看護師編」☆
出演:上野樹里、温水洋一、設楽統、六角精児
脚本:鈴木智尋
彼氏(バナナマン設楽)にフラれてしまったことをきっかけに自殺を決意した看護師が、同じく自殺志願者(温水)に出会ったことで、少しずつ価値観を変化させていく話。
本ドラマの原案となった短編の第2作『ロス:タイム:ライフ2』を踏襲した回。そのため、ロスタイムにも関わらず、自殺を試みようとしたり、これまでのエピソードとは一味違う終わり方などが共通している。
4話目にして、早速、シリーズのお約束のひとつを簡単に塗り替えてしまうという衝撃のエピソードで、他のエピソードでも言及されることの多い重要な回でもあった。
『のだめカンタビーレ』のイメージが強かった当時としては、真逆のキャラクター設計に驚きすぎて、笑った。
第5節「幼なじみ編」◎
出演:伊藤淳史、美波
脚本:土田英生
マンガ家を目指し、ついに読みきりが連載された矢先に事故に遭い、ロスタイムに参加することになった男性の話。
筧昌也監督作品には頻出の題材「マンガ家」という設定(『ハリコマレ』、『素敵な選TAXI』第6話、『センチメンタルカラス』など)が、ここでも使われていて面白い。
(脚本家は違うため、偶然かもしれないが……。)
物語は、後半に至るまでは、割といつも通りという感じで、目新しいものはないが、クライマックスの急展開で、かなり驚かされる。
他の回では使われていなかった意外な設定を持ってきたことで、差別化に成功し、名作だった前回に埋もれることのなかった秀作。
第6節「ヒーローショー編」☆
出演:田中直樹(ココリコ)、田中圭、安田美沙子、片桐はいり
脚本:上田誠
いい歳になりながらも、ヒーローショーの悪役から抜け出せない冴えない男性が、最後のショーで一泡吹かせようするエピソード。
シリーズ史上、最も安定したストーリーと、効果的に使われるアニメーション演出。
「今回の脚本、シンプルながらも、かなりレベル高いなぁ~」と思っていると、人気劇団・ヨーロッパ企画の上田誠(代表作:『サマータイムマシン・ブルース』、『ペンギンハイウェイ』)さんと分かり、納得。
のちにディズニーが作ることになる中年男性主役の傑作アニメ映画『シュガーラッシュ』の本質が、この時点でおおよそ描かれていたという衝撃。
全く垢抜けていない田中圭さん、ヨーロッパ企画のお馴染みメンツなど、キャスト陣も豪華で、このドラマで最も人にオススメしたい回。
第7節「極道の妻編」○
出演:常盤貴子、吹越満、濱田岳、ムロツヨシ
脚本:吉田智子
夫の仇討ちをした結果、死んでしまったものの、隠された真相を知ってしまう極道の妻の話。
テーマに合わせ、BGMが尺八などを使用した古典芸能アレンジになっていたり、文字が和風になっていたりと、演出面のこだわりが、かなり楽しい一作。
展開の意外性はありながらも、他の回と比べれば、若干、印象の薄い物語は気になるものの、初期の濱田岳さんが脇役として活躍していたり、チョイ役で登場するムロツヨシさんには嬉しくなる。
第8節「部長編」◎
出演:真木よう子
脚本:渡辺千穂
部長としてチームを引っ張りながらも、メンバーからは距離を置かれてしまっている孤独な主人公のロスタイムを描く。
ドラマ『SP』に引き続き、真木よう子が、しっかり真木よう子しているwというだけで満足な回。笑
同年に放送されたドラマ『週刊真木よう子』を思わせる無駄な入浴シーンには笑ってしまうものの、ラストには、しっかり感動させる辺り、かなり脚本のレベルも高い名作回。
第9節「ひきこもり編」☆
出演:大泉洋、温水洋一
脚本:鈴木智尋
ひきこもりの大泉洋が、ひたすら自宅で過ごすものの、なぜか、全く死が訪れずに、困惑する回。笑
大泉洋が、もはや大泉洋を演じているので最高。
一見、地味に見える物語でありながらも、事実上の最終回というポジションでもあるために、これまでの物語を踏まえた描写があるほか、実は最も「ロスタイム」という設定の本質を描いた傑作。
視聴者の誰しもが、実は、これまでの登場人物と同様にロスタイムライフを生きるプレイヤーだったのではないかと考えさせられる意外な展開に、シリーズの終幕を惜しまずにはいられない最終回に相応しい一作。
特別編 前編◎
後編△
脚本:山崎淳也
出演:温水洋一、栗山千明、酒井若菜、岸本加世子
これまでの全ての回に登場し、謎に包まれていた男・尾元勇蔵の大奮闘を描く番外編。
リアルタイム放送時、特別編決定のお知らせに歓喜した思い出が強い。笑
とはいえ、改めて本編を見てみると、尾元勇蔵が政治家の闇に関わる前編は普通に楽しいものの、それに続く、後編(地上波放送の最終回)が、あまりにもイマイチすぎて納得がいかない。笑
ただ、温水さんと岸本さんがひたすらにイチャつくだけの二十数分間が続くので、期待値は、かなり下げた方が良い。笑
(『ロス:タイム:ライフ』らしいラストの切なさは、とても良いけれど。笑)
というわけで、本当はドラマシリーズは、ここまでで終了してしまった本作ですが、人気のため、携帯会社auの配信限定シリーズとして、まさかの復活。
最終回に納得いかず、そちらも鑑賞したので、以下に追記します。笑
第10節「猫編」☆
出演:谷村美月、田畑智子、青木崇高
脚本:筧昌也
飼い主に捨てられてしまい、死んでしまった猫が主役の異色作。
実は、後に放送される『世にも奇妙な物語 21世紀 21年目の特別編』の一編『PETS』の原点となった一作。
猫の着ぐるみを被った谷村美月さんのハマり具合だけでも、かなり高評価な作品w。
(というか、そもそも、谷村さんに猫役をオファーした時点で、ほとんど勝利が確定していたような……。笑)
この後、筧昌也さんは、映画『トラさん~僕が猫になったワケ~』でも、擬人化した猫を描いており、今、思えば、後の監督作品の方向性を決定づけることになる原点ともいえる作品のように感じた。
第11節「ロックスター編」△
出演:武田真治、マイケル富岡
脚本:橋本博行
武田真治演じるロックスターが、カッコ悪い死に方をしてしまい、なんとかしようとする話。
お涙ちょうだい的な要素もありながら、全く泣くことが出来ないという絶望的な出来の作品。
とりわけ、演奏シーンの楽曲の弱さと、ギターを弾いているフリの下手くそさを突っこまずはいられない作品で、シリーズTOP3に入るイマイチ回を、ここにきて、更新してしまっている。笑
第12節「親子編」☆
出演:加藤清史郎、池田鉄洋、はしのえみ、つぶやきシロー
脚本:橋本博行
人生のロスタイムに現れる審判たちが見えるようになってしまった少年。
彼が大切な人を守るために奮闘するエピソード。
最後の最後で、しっかりと、『ロスタイムライフ』シリーズの真髄を見せてくれた本当の最終回。
いまだかつてない設定を採用したことで、これまでとは全く異なるストーリーを実現した脚本のアイデアと、全盛期の加藤清史郎くんが主役という満足感。
ドラマシリーズ最終回の物足りなさを見事に補完してくれる見事なエピソードだった。
番外編「天才発明家編」◎
製作:立命館大学の学生の皆様
脚本:柿原朋哉
本ドラマの完結後、シリーズのファンである大学生が作ったファンメイド作品。
当時、ネットで予告編が公開されていたものの、見ることの出来る機会が少なく、やむなく断念した作品。
しかし、今回、ふと思い出して検索してみると、しっかりと公式がYouTubeに挙げてくれていました。笑
学生映画ゆえに、映像や物語のクオリティを多少な粗はありつつも、シリーズのイマイチだった回よりは、断然に推せるエピソード。
なんといっても、シリーズのお約束である"ある要素"を見事に実現してしまったところは、本当にスゴいとしか言えず、今回のレビューにも入れさせていただきました。笑
ちなみに、監督は、いまや、人気YouTuberのぶんけいとして知られている柿原朋哉さん。
主題歌には、若者の間で人気のロックバンド・"グッドモーニングアメリカ"さんの楽曲が使われており、その力の入りようには感動します。
参考
侍ショートフィルム「ロスタイムライフ
https://youtu.be/zW_TK8-VVkw
(本ドラマの原案となった短編。現在、観ることが可能な方法がこちらしかないため、リンクを貼っておきます。)
短編映画「ロス:タイム:ライフ 天才発明家編」 ( Japanese short film "Loss:Time:Life GENIUS" )
https://youtu.be/E9kXaYg5Ng4
(こちらがファンメイド版の本編。公式同様、しっかり30分程度の尺がある力作。)