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マスター・オブ・ゼロ シーズン3のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

シリーズの中でも印象的な登場人物だったデニーズを主役に、レズビアンのカップルのリアリティを描きながらも、あくまでふたりの人間の親密な時間の終わりを主題としているのがよかったと思う。静かに流れる映画的な心地よさの時間の中で、どこまでスクリプトとして書かれているのかわからないくらい自然で、それでいて気の利いたことばの交わし合いの中で感じるふたりの距離が生々しく記憶に残った。

仕事と育児について向き合うカップルと、その価値観の不一致から離れていくふたりを描く映画はたくさんある中、年齢的な制限や人工授精の具体的な過程、そしてゲイでありシングルの女性が子どもを持つことへの社会の視線など、このあたりの今日性の描き方はこのシリーズの持ち味だし、ずっしりと重くのしかかるものがあった。強く望むことの尊さと重圧に胸が苦しくなった。

このシーズンのタイトルにあるように、愛はきっと瞬間の連なりでしかないのだなと、観終わって思う。子育てへの価値観から別れていったふたりが、数年後にはどちらとも子育てをしているわけで、離れていても愛していないわけではない。かといって、いまのパートナーに愛がないわけでもないのだろう。「just not you」ということばがすべてを語っていた気がする。ふたりは最後かもしれない親密な時間を過ごして、また日常のレギュラープログラムに戻っていく。

metooムーブメントの中でazizの問題も取り沙汰され、このまま作家としての活動を継続できるのか、たぶん彼も不安なのだろうことが、デニーズの結末から感じられた。コメディアンとして自虐的にデヴを演じていたけれど、今後このシリーズがどうなるかもわからないなと思う。とにかく、フィルムメーカーとして腕があることはたしかにこのシリーズで再び示されたと思うし、気持ちは複雑だけれど彼の今後を気にしてしまうと思う。彼にしか描けない痛みのようなものが、たしかにこのシリーズにはあると思うから。
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