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ウォッチメンのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

ウォッチメン(2019年製作のドラマ)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

アラン・ムーアとデイヴ・ギボンズが1986-87に手がけたDCコミックスの同名シリーズが原作。グラフィックノベルで描かれたストーリーのリブートではなく、シリーズ世界観に新たなキャラクターを導入して連続性のある物語を紡いだもの。第72回エミー賞(2020)のリミテッドシリーズ部門(1シーズン終了もの)で作品賞、主演女優賞含む最多11冠。音楽は安定のトレント・レズナー&アッティカス・ロス。

舞台はオクラホマ州タルサ。かつてはBlack Walll Streetと呼ばれ、1921年には実際にアメリカ史上における最悪の人種差別暴力として記録される虐殺が行われた(そしてその後75年もの間無かったことにされていた)その地において、白人至上主義団体の”第7騎兵隊(7th Cavarly)”と悪者に素性を知られないように覆面を使うようになった(とされる)警察とが衝突を繰り返していた。ただ、ストーリーが進むと”第7騎兵隊”は単なる人種差別集団ではなく、ロバート・レッドフォード政権下において「白人こそが生きづらくなっている」として民衆を巻き込み、警察やホワイトハウスまでをも支配して文化戦争を仕掛けている勢力だということが明らかになってくる。さらには、60年代にアメリカに破れた(ウォッチメン世界ではDr.マンハッタンによってアメリカが勝利)ベトナムを巡るストーリーが展開され、かつて独自の思想によって世界を救おうとした(そして300万人を死に追いやった)オジマンディアスと彼の元で働いていたベトナム系清掃員との間に生まれたトリューがそうした分断を解決すべく白人vs黒人の図式に割って介入してくる。虚実入り乱れながら、ウォッチメン(正義の監視者)という意味にふさわしく、ここにそれぞれの正義を掲げる者たちが衝突する。

BLMの運動や、政治の側にこそ分断の扇動者がいるといった2019年のアメリカの状況を下敷きにしながらも、最終の8話9話にかけてDr.マンハッタンが物語に関与してくることで、現実に起きている多くの問題を解決しない神の不在(「彼の力を考えればもっと何かできたはずだ」と語られる)、そしてその不在を埋めるべく自ら神にならんとする人間たちの暗い欲望を描き出していて、現代の寓話は終盤にかけて加速していく。

Dr.マンハッタンには人間のような時間感覚がなく、映画「メッセージ(Arrival)」のように、全ての時間軸に同時に偏在する存在。そのため、8話ではアンジェラとのラブストーリーが、そして9話では世界を救うための物語が時間や惑星をまたいだ(あるいは等価になった)スケールで展開されることになるのだが、本作はこのラスト2話がとにかく最大の見所。時間軸を自由自在に行き来する編集が見事で、アンジェラみたいな面倒な女性にどうしてDr.マンハッタンが交際を申し入れるのか、つまり最初からDr.マンハッタンは知っていた未来の恋に落ちる瞬間や、マンハッタンの死の瞬間には文字通り彼女との全ての瞬間に存在している様子を見せていく等、素晴らしくロマンチックであるだけでなく、ある意味そういった能力を持ち得ない普通の人間(マンハッタン以外のウォッチメンも超能力を持っていないが)も同じような体験をすることもあるのでは...?と何か理想にも思える愛の形がファンタジックに展開される。

ガジェットや道具立ても面白い。父親が服薬している痴呆症予防薬のノスタルジアは他人が飲むとその人の過去を追体験して、自分の体験と区別ができなくなってしまうある意味では恐ろしい薬物だが、それによって父と娘は家族関係を取り戻すことになるわけで、ここにも何か現実を乗り越える理想のようなものが見て取れる。他にも超次元研究所のテレポートウィンドウやホログラムを表出するフープ、火星にメッセージを送る電話ボックスや、物体を透過して内部構造を見るためのHMD、360映像装置を備えた尋問ポッド(これは全然大したことないが)も含めて、見ていて楽しい。

また、コロナ以降の視聴で考えさせられるのはマスクについてだ。最初の覆面ヒーローのフーデッド・ジャスティスは「覆面の下は白人でなければならない」と感じたからこそ白粉で目元を隠した。警察は身元を悪人に知られないように覆面を付けたのではなく、凶暴性を高めるため、残酷になるためにマスクをした。いま日常的にマスクを付けるようになった我々は何を隠すのか?より残酷になってしまうのか?現実はドラマが想定したさらにその先の世界を迎えているとも言える。
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