かず

プロット・アゲンスト・アメリカのかずのレビュー・感想・評価

4.8
スターチャンネルEXに登録再開したので観賞。配信終了間近とのことで観てみたが、おもしろくて一気見してしまった。

第二次世界大戦直前と同じ不穏な空気を帯びている現在に映像化される意義のある作品だった。
その点で、本作は、同じ空気を汲み取った『スパイの妻』とも呼応する。

「人種差別はいけない」と一面的に断罪するのではなく、様々なアンビバレントな感情に引き裂かれるようなストーリー展開が巧い。

国民を死なせないために戦争はしない方が良いに決まっている。しかし、だからといって、戦争と関わらないために、人種差別主義者・虐殺者と手を組み、ユダヤ人虐殺を見て見ぬフリをする権力者をリーダーにして良いのか。
自分が差別されていなければ、他人が差別されてもどうだって良いのか。
人種差別すること以外は心優しい人間だからといって許せるか。
生まれも育ちもアメリカなのに、ユダヤ人というだけで「アメリカに馴染ませよう」などという差別的な政策を適用されることを受け入れられるか。

本作では、ルーズベルトが共和党候補のリンドバーグに大統領選挙で敗れる設定だが、ヒトラーと手を組むリンドバーグをルーズベルトが「人種差別」と非難すると、民衆から「リンドバーグを邪魔するな」、「ユダヤびいき」と批判される。

企業に圧力をかけて特定人種の社員を全国転勤させれば、コミュニティを分断することは簡単だ。

中途半端な知識しか持ち合わせていないので戦争を正当化するわけではないが、
一つの歴史観として、第二次世界大戦もアメリカ南北戦争も、人種差別との戦いを含んでいたと見ることもできるのかもしれない。

権力者に媚び諂い差別主義者を支持する者は、トカゲの尻尾のように切り捨てられるまで、差別主義者に利用されているだけであることに気付かない。

ラストに投票によって新たなリーダーを選ぶことで希望を提示するかと思いきや、、投票箱を回収して大量の投票用紙を燃やすとは。。
一度崩壊した民主主義とヘイトによる分断は、そう簡単には取り戻せない。。


・歴史改変ドラマ「プロット・アゲンスト・アメリカ」配信決定、米HBO製作 ─ 1940年、もしも米大統領が親ヒトラー派だったら
https://theriver.jp/plot-against-america-release/

・無名の人々に寄せる、祈りにも似た共感の物語/原作翻訳者・柴田元幸氏が解説するドラマ『プロット・アゲンスト・アメリカ』
https://note.star-ch.jp/n/nbcd283c0f86b

・フィリップ・ロスの傑作歴史改変小説を豪華キャストでHBOがドラマ化(文:今祥枝)
https://note.star-ch.jp/n/ne0e4f24c6033
かず

かず