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悪の花のsoopenのネタバレレビュー・内容・結末

悪の花(2020年製作のドラマ)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

最後まで気の抜けないサスペンスではあるのに、終始一貫ロマンスを貫いた作品。
しかしこのドラマの驚くべき他作品との相違点は、ラスト1話を生かすために、今までの長い話数があったということ。ロマンスだけれども、これは主人公の心の旅路、自分を取り戻すための、気の遠くなるような長い長い旅路の記録だったのではないか、と思います。

イジュンギ扮するペクヒソンは、愛情溢れる子煩悩で家庭的な優しい夫。金属加工工芸家として店も持ち、安定した生活を大事にしている。その妻は強力班で活躍する刑事。そこへペクヒソンが隠してきた過去との繋がりを持つ記者が現れる。キムムジン、彼はペクヒソンに会うなり、故郷での18年前のサイコパスの事件を思い出し、その繋がりを暴こうとする…

ペクヒソンの良い夫の仮面が剥がれ落ちる様は、もしかして本当に殺人鬼?と疑いつつ、現在と過去の殺人事件の関係や、現在の類似事件の進展を見せられて、謎も疑いもマックスに膨れ上がり、目が離せない。それでも回を重ねるうちに、ペクヒソンの本当の姿が見えてきて、ここまで不幸を背負って生まれてきた人間が、これから先も不幸でいいのか?という気持ちにさせられました。夫の怪しい行動に気が付いた刑事の妻、ムンチェウォン扮するジウォンは、衝撃を受けながらも夫を信じ続ける、愛を確信する女を好演。

犯人は早い段階で判明するものの、その後の展開も手に汗握る状態が最後まで続いて全く飽きさせず、サスペンスとしても、ロマンスとしても、秀逸なエンタメでありながら、その根底には深い人間ドラマがありました。

イジュンギは、今まで見たこともない程繊細な演技を見せていると思いました。
反社会性パーソナリティー障害、と子供の頃に診断され、感情の動かない、変わった子供で、父親は自殺した殺人鬼、となれば狭い村ではいじめは必至。しかしトヒョンスは、本当にこの病気だったのだろうか?陰湿で暴力的ないじめを受け、共犯を疑われ、自分自身を父親と同じような人間だから、人を本当には愛せない、幸せになるなんて考えたこともない、と18年間自分に言い聞かせて、自分すら騙していたのではないか?と思うのです。愛情表現豊かな妻のことを、愛したことは一度もない、と言っていたけれど、妻に危険が忍び寄ると身を呈して守る、もうそれが愛でなくてなんなの⁈と何度も思わせられるシーンがあり、ジリジリしました。
ラストで姉のトヘスが、私達は自分をどこかに置いてきてしまった、始めるには起点が必要なの、というセリフにも泣けましたが、起点はあなた達の目の前にあるよ、と言いたかった。記憶喪失には泣かされたけれど、自分を取り戻す過程で必要だったのかな…

サイコの父親が自殺に至る心理などは、詳しくは描かれていないので、とても不気味な存在としか思えず、その父に過去編で、息子は出来損ないだ、と言われて共犯者リストから外されたのは、既にトヒョンスが真っ当な人間であることを物語っていたのではないか、と思うのです。随分遠回りしちゃったけど、その分幸せになってね、と言いたくなりました。
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