Jun潤

大河への道のJun潤のレビュー・感想・評価

大河への道(2022年製作の映画)
3.6
2022.05.20

情報解禁から気になっていた作品。
立川志の輔の創作落語に感銘を受けた中井貴一が、この落語を映画にして、どんな形でもいいから携わりたいと言う強い気持ちから生まれた作品。
中井貴一×松山ケンイチ×北川景子らが現代と江戸時代の人物、それぞれ二役を演じる。

千葉県香取市。
その市役所で、県のPRとして地元一番の偉人である伊能忠敬を、大河ドラマに取り上げてもらおうという企画がスタートする。
総務課主任の池本は早速、脚本を大物脚本家の加藤に依頼するが、なかなか取り合ってもらえない。
そこで伊能忠敬の偉業を紹介しようと加藤を記念館に連れ出し、「大日本沿海輿地図」を目にした加藤は伊能忠敬について調査を始める。
その結果明らかになったのは、伊能忠敬は日本地図完成の3年前に逝去していたという事実だった。
完成から200年経った現代において、日本地図完成の真実が明らかとなり、過去から現代、そして未来へと続く大河への道が拓かれるー。

これはやられましたわ、安心安全、心穏やかに觀られる信頼と実績の松竹ムービー。
物語としては本当に予告そのままといった感じで、史上初の日本地図を中心に現代と江戸時代双方から、歴史に名の残らない小さき人たちの偉業とそこに至るまでの道が描かれていたようなもの。

演技については、中井貴一様様といったもの。
もはや安定を通り越して何者なんだ!?というレベル。
序盤と終盤に描かれたコミカルな池本の姿とは打って変わって、江戸時代は高橋景保として威厳ある姿、苦悩しても伊能忠敬の偉業を高瀬に残そうとするシリアスな姿を演じていました。
そういう演じ分けがあったからこそ、作品の雰囲気自体がコミカルとシリアスでしっかりくっきり分けられていたんだと思います。

実際ちょっと調べれば伊能忠敬が地図完成前に亡くなっていたことも高橋景保の存在もネット上に転がっているわけで、偶然にも前日に鑑賞した『教育と愛国』で触れていたように、学校教育の日本史で学ぶのは「歴史上初めて日本の地図を完成させたのは伊能忠敬である」というわかりやすいとっかかりでしかなく、通常の勉強では学べない日本史の深い部分にエンタメ方面から切り込んでいく作品として目新しさもありましたね。
そして伊能忠敬を生前も没後も陰で支えていた名も無き人々だけでなく、今を生きる人々の人生や一つ一つの行動もまた、歴史に名は刻まれないかもしれないけれど、大河という大きな流れに繋がる小さな流れの一つなんだなと思いました。
また、そんな大河へ続く流れも、「どうして伊能忠敬を扱った大河ドラマはないの?」という小さな疑問を持つこと、伊能忠敬や池本のように、何歳から始めても、そのためにどんな人を師事しても、まずは一歩目を踏み出すことから始まる、というのも作品のメッセージ性として感じました。

『大河への道』も一歩から。
Jun潤

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