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めぐりあう時間たちのeverglaz0のネタバレレビュー・内容・結末

めぐりあう時間たち(2002年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【流れる時間と意識を断つ死】

昔初めて観た時に感じた、何とも言えない息苦しさが鮮明な記憶として残っていて再鑑賞。ようやく言葉として表現できる気がします。
絶え間なく流れる時間を意識させつつ、自由と抑圧、叶わぬ愛、生と死を通して、"Mrs. Dalloway" という劇中にも登場する小説のように、各女性の人生とその結末を象徴する1日を切り取るような形で描いています。

1923年 Richmondで静養中の作家Virginiaは、"Mrs. Dalloway" を執筆中。
1941年 Sussexにて夫宛に遺書を残しVirginiaは川へ身を投じる。
1951年 LAで"Mrs. Dalloway"を愛読するLauraは二人目を妊娠中。
2001年 NYで元彼Richardに "Mrs. Dalloway" という愛称で呼ばれる Clarissaは、Richard の受賞パーティ開催に奔走する。
ネタバレするとRichardはLauraの長男。

幸せの形は人それぞれですが、人によっては他人にその幸福の拠り所を求め、ひたすら「幸せの押し売り」をしてしまいます。例えば、Leonardは妻Virginiaの静養に「良かれと思って」LondonからRichmondへ引っ越し、Danは自分にとっての典型的なアメリカンドリーム、「幸せな家庭」を築き上げることで妻Lauraも満足だと信じており、Clarissaは、過去最高に幸せな1日をくれた元彼Richardから長年離れられず、本人が望まないパーティを計画します。善意を押し付けられている側はどうかと言うと、田舎で暮らすぐらいなら死んだほうがマシ、都会のLondonに戻りたいと泣くVirginia、息子を捨て胎児と共に自殺を試みるLaura、Clarissaを満足させるためだけに生きているんだと、AIDSに苦しみ自殺するRichard。

押し付けている側が身勝手かというとそうでもなく、そこには彼らなりの確かな愛があります。その愛が全く伝わっていない訳ではなく、Virginiaは遺言で夫に感謝し、Lauraは自分の望む人生を選択しただけだ(少なくとも憎んでいるのではない)と言い、RichardはClarissa に愛を伝えてから飛び降ります。

これら3つの時代の鍵となる"Mrs. Dalloway" という主人公を創り上げる作家Virginia Woolfがどういう人物かというと、精神を病んで生と死に高い関心を抱いています。
"My life has been stolen from me. I'm living a life I have no wish to live."
そしてどんな人間も自身の人生の処方箋に意見できるはずだと主張します。
"The meanest patient, yes, even the very lowest is allowed some say in the matter of her own prescription. Thereby she defines her humanity."

実際の小説内の"Mrs. Clarissa Dalloway" は、伝統的な階級社会を重んじて下流階級を軽蔑しつつも、先進的な考え方の女性に惹かれるという、上流階級の英国女性です。NYのClarissa Vaughanと同じように、パーティの準備に追われながら、過去に想いを巡らせ、些細なことを気にする姿が書かれています。この映画の中では、社会的には成功し自信に溢れて見えるが実はそうではない、とLauraが述べています。NYのClarissaと同様に、傍目には何不自由なく、理想的な幸せ(仕事や地位、パートナー、娘)を手に入れているように見えても、「沈黙を隠すパーティ」のように、所詮うわべだけで、過去に囚われ中身のない「生」を生きている人なのです。
そしてClarissaだけでなく、主要登場人物は全員、渇望したものが手に入らずに苦しみます。都会の喧騒、子供、自由、家庭、母、最愛の人…。不妊で悩むKittyの言葉にそれが表れています。"All my life I could do anything except the one thing I wanted."

突然の訪問客、予定より大幅に早く到着する来客に象徴されるかのように、人生において全て計画通り、思い通りに行くことはないでしょう。では人生の「時間」を期待通りに過ごせない場合、彼らはどうするのか。Virginiaの言うように、各自が決断する権利を持つならば、彼らは人生とどう決着をつけるのか…。

Virginiaは夫の愛、共に過ごした年月に感謝しつつ、生を捨てて死を選びます。RichardもVirginiaと同じ最期の言葉を残します。"I don't think two people could have been happier than we have been." 過去に幸せな時間は流れたものの、未来に幸せを期待できずに死を選ぶのです。

Lauraはおとなしく従順に見えますが、全く主婦業には向かない女性です。レシピを追っても失敗するケーキ作りやその毒々しい色合いにも表れています。一人静かに読書をしていたいタイプなのです。よって彼女は家庭を捨てて自由を得たことに後悔していません。彼女にとって結婚生活は死であり、家族と歩む「死」よりも自分一人の「生」を選択するのです。そんな彼女を最後に抱きしめるClarissaの娘Juliaの温もりに、愛とは本来心地良いものであることを感じ取ったでしょうか。

かつて満ち足りたひと時を共にしたRichardと一緒でなければ生きている気がしないとまで言っていたClarissaは、長年連れ添ったパートナーSallyに今一度向き合い、未来に幸せを見出すため、真に生きることを決断したように見えました。

どよ〜んとした話で、表面的にはウツにしか見えない内容かも知れませんが、"Mrs. Dalloway" そのものだったClarissaが、自分の周りに存在していた「その他」の愛に感謝し、未来志向に転換するという、実は極めて前向きな結論のお話なのだと思います。

同性愛については、Mrs. DallowayやVirginia、Lauraの時代ではタブーとされているも、ClarissaやRichardの生きる現代では解放された価値観に進化したと言えます。

ひとつひとつの何気ない台詞、何気ない行動に、言わんとすることが凝縮されており、受け取る側でそれらを繋げていく必要があります。Virginia Woolfの原作、それを基に著作されたこの映画の原作の両方を理解していれば、すんなり入ってくる内容なのかも知れません。観客を試す作品であり、観る人を選びますが、3人のオスカー女優の演技は言うまでもなく素晴らしいです。今の自分にはこんな風にしか解釈できませんでしたが、違うライフステージで観れば、また異なる気付きを与えてもらえそうです。


Virginia:
"Someone has to die in order that the rest of us should value life more. It's contrast."
"You cannot find peace by avoiding life."
"To look life in the face, always, to look life in the face and to know it for what it is. At last to know it, to love it for what it is, and then, to put it away. Leonard, always the years between us, always the years. Always, the love. Always, the hours."

Dan:
"The thought of this life, that's what kept me going. I had an idea of our happiness."

Laura:
"There are times when you don't belong and you think you are gonna kill yourself."
"What does it mean to regret when you have no choice? ... It was death. I chose life."

Richard:
"We want everything, don't we?"
"I'm only staying alive to satisfy you."

Louis:
"The day I left him... I felt free for the first time in years."

Clarissa:
"There was such a sense of possibility… I remember thinking to myself; so this is the beginning of happiness, this is where it starts. And of course there will always be more… Never occurred to me it wasn't the beginning. It WAS happiness. It was the moment, right then."
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