このレビューはネタバレを含みます
行政の水道料金徴収担当の主人公と、その主人公が給水停止をして滞納世帯を周りながら繰り広げられる人間ドラマと、水道のようなライフラインは無料であるべきではないのか?という問いかけが埋め込まれた一作。生田斗真がイイ男なのにどことなく落ちぶれたような雰囲気を出していてとても良かった。
生命に必須の水なのに、滞納とはいえ給水停止することは半ば生命を奪うのとニアリーイコールなわけで、そうした部分に着目したことはそれだけで高評価に値すると思う。本作は、大テーマというか、込められた(と思われる)メッセージやキャストの演技、風景描写などもすごく良かった。
ただ低評価なのは、これが物語の根本的なところでとんでもない誤りを犯しているように思えてしかたなく、それがその後の展開を全て滑稽なものにしている気がしてならないからだ。
生田斗真演じる主人公が、母親が家を空けがちなシングルマザー家庭の家を訪問し、督促に対しても一切支払いがないことを理由に、子ども2人しか在宅していない時に給水停止をするのだが、いやいやちょっとさすがにそれはないだろ、と思う。主人公も、もしかしたら親が帰ってこないのではないかと明らかに疑っているのに、その上で給水停止することは完全に犯罪的だし、そのことだけで処分に値するはずだ。滞納がいくらになろうと、少なくとも子どもしかいないタイミングで給水停止するなんて鬼か悪魔の所業でしかない。
そんな中でバケツに水を汲んでやったりアイスを買い与えてやったりしてもそれはもう滑稽にしか映らない。ましてや、自分の鬼の所業で蒔いた種を「流れを変えたくなったんだ」等と言って水道を勝手に開栓して水を撒き散らすとか、さらにそれで悦に入ったり幸福を感じているとすれば、あんたどんだけ自分勝手なんだよと突っ込む以外に何があろうか。
少なくとも主人公は、給水停止をする前に子ども支援の担当部署や児童相談所に情報提供するとか、上に確認するとか、それぐらいは最低限やらなければいけない。
問題関心やテーマ性は良かったのに、主人公の意味不明な所業のせいで、後は全部自分が蒔いた種の、滑稽な回収作業でしかなくなった感がある。
面白いのにつまらなかった。そんな残念な一作。
作品の名誉のために一点だけ特に評価できるところを挙げておくと、「水」そのものだけではなくて「水道設備」の維持の問題もあると指摘されていた点。水道設備を維持するために市民からの拠出を求めることはおかしいと思わないし、もし拠出がなくなったとしてもそれだけ税金が上がるだけだったりするわけで。かといって「無駄を削減して…」などという物の言い方ももはや聞き飽きた。要は水は太陽や空気と違い、大掛かりな設備維持コストがかかるインフラだということだ。誰かがどこかで負担しないといけない。負担はしたくないけどおいしい思い、快適な思いをしたい、というのは出来ないということだ。これはすぐれて公共政策や税の問題としても捉えられるし、この一作からいろんな方面に触手を伸ばして考えることができるな、という映画でもあったと思う。