これは格式高い会話劇であり、密室劇。
1950年代のシカゴが舞台でありながら主人公はイギリスからの移民なので、イギリス訛りもたっぷり堪能出来て幸せ。
シカゴにあるスーツの仕立店。店主のイギリス人裁断師(マーク・ライランス)は、店内で起きたマフィアの組織内抗争に謀らずも巻き込まれてしまう—— 。
監督・脚本は「イミテーション・ゲーム」の脚本を手掛けたグレアム・ムーア。
面倒事には目を瞑り、一切首を突っ込まない。ただ静かにスーツを仕立てている店主。それでも、「仕立て屋」と呼ばせず「裁断師」と呼ぶように口を挟む。ズボンの事も「pants」とは言わせない。そこはイギリス英語ですから。「trousers」だと。
自らの仕事に誇りを持っているのだろう。マーク・ライランスがイメージにぴったりとハマる。
全ての出来事は店内で起きる。
ワンシチュエーションものでありながら、全く飽きさせない脚本の力に感服する。
アルフレッド・ヒッチコックの密室劇「ロープ」のオマージュも。
イギリスを追われ、何故シカゴに店を出したのか。裁断師は「ブルージーンズが流行したからだ」と自嘲気味に笑うが。本当の理由は別にある。
受付嬢(ゾーイ・ドゥイッチ)の裏の顔。
そして裁断師の裏の顔。
特に後者にゾッとする。
大きなはさみで生地を切り、慣れた手つきで縫い合わせていくその仕事ぶりにも惚れ惚れしてしまった。
映画の良し悪しは脚本で決まる。
改めてそう感じさせる良作。