francois708

マドンナのfrancois708のレビュー・感想・評価

マドンナ(2015年製作の映画)
4.5
ヘリムとミナの、幻の対話の中で、「どうして産もうと思ったの」という問い、私も見ながらずっと思っていた問いだった。あんな形で犯されて身ごもった子どもなのに、ミナは「この子に愛されている」と感じる。今まで一度も愛された経験がなく、いじめられ、からかわれ、虐げられてきた女性の一言が限りなく重い。
冒頭でトランクを池に沈め、その後で赤ちゃんの泣き声が聞こえる場面に不吉な形で示されるように、望まれない妊娠があり、思い出したくもない強姦があり、迷っているうちに堕胎手術のタイミングを失うことがある。赤ちゃんを殺して捨てるなど人非人の行為と非難するのはたやすくても、そうせざるをえないところまで追い込まれた当事者の女性の閉塞感と絶望への想像力を、我々はどれだけ持ち合わせているだろうか。とりわけ無傷で涼しい顔をしている男たちは。
同じ監督の『オマージュ』で、異なる時代を生きた二人の女性の間に芽生える連帯が描かれていたが、この作品でも、立場の異なる二人の女性の間に友情のようなものが芽生える。二人のうちの一人は脳死状態と診断されて、意思疎通ができないかに見えるのに、微かな波動のようなものが二人の間に流れていて、それゆえだろうか、昏睡状態からの目覚めの兆候さえ見えてくる。
これはうがちすぎかもしれないけれど、マドンナとは元々イエスの母マリアのことであり、マリアもまた、誰かわからない人の子を孕んだのだった。キリスト教では神が孕ませたことになっているが、誰に妊娠させられたにしても、当時の世界では石打ちの刑に値する重罪だったのに、婚約者のヨセフの寛容によって、マリアは産む決意をする。この映画ではミナがマリアとすればヨセフの役割を果たすのはヘリムであり、殺される危機に瀕していたお腹の子どもを救い出すためにとった彼女の勇気ある行動(たとえそれが犯罪であっても)に深い感銘を受けた。
francois708

francois708