netfilms

ヘルドッグスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ヘルドッグス(2022年製作の映画)
3.9
 祭りの後の寂しさ的な場面は『沈黙のパレード』でも感じ、私はあの事件を真っ先に連想したのだが、立て続けに見た映画であの事件が完全な形でオマージュされるとは思いもしなかった。あの陰惨な八王子スーパー強盗殺人事件は御存じだろうか?当時はスーパーナンペイ事件として90年代を震撼させた猟奇的な殺人事件は犯人の目星は付いているなどとと言われたものの、いまだに未解決である。スーパーナンペイのワードはもはやこの世にはない。今作の主人公はスーパーで出会った店員に入れ込んでいる。彼女とのデートの約束を取り付けた後、あまりにも陰惨な惨劇は繰り広げられるのだ。警察官・兼高昭吾(岡田准一)の感情の発端にはこの事件の湿度が関係している。冒頭からアジアン・ノワールを思わせる様な蒸し蒸しとした湿度を感じさせる映画だ。岡田准一と三度目のタッグとなる原田眞人の映画はムラ的な日本市場から解き放たれ、ある種の国際市場を見据えた大胆な試みとも類推することが出来る。深町秋生の原作小説は未読だが、この原作が中途半端な漫画原作とは趣の異なるハードボイルドな設定の暴力譚だということは誰の目にも明らかだろう。関東最大のヤクザ組織・東鞘会などという作品のディテイルはこの際どうでも良く、男たちに滾る奇妙な友情こそが物語を動かして行くのだ。

 同調圧力的なムラ社会と個人との葛藤、それに紐づく友情は銃口と血の匂いを孕む。男性的な弱肉強食の世界では深謀遠慮よりも男根=弾痕的な強さだけに人は靡き、かしづく。情け容赦ないこの世界では力だけが圧倒的な権力であり、威嚇と去勢だけがモノ言う社会だ。柴主高秀のカメラは時にエドワード・ヤンのような大胆な夜景を切り取ったかと思えば、いかがわしいヴァイオレンスへと興じる不思議な引力が在る。とにかく音ではったりかますような今作の音像には賛否在るものの、中盤以降、異なる空間で起こる活劇には素直に称賛を禁じ得ない。原田眞人が北野武を越える様な活劇の「速さ」に魅了されているのは明らかだが、今作で岡田准一が多用するばかりのジークンドーによるアクションの説得力はハード・ヒットと胡麻化しているものの有無を言わさない。サミュエルフラーの『東京暗黒街・竹の家』辺りを念頭に置いたであろう今作のいかがわしいトーンは、十朱を狙った女殺し屋ルカ(中島亜梨沙)や吉佐恵美裏(松岡茉優)や衣笠典子(大竹しのぶ)ら女性陣の存在感が抜きん出ている。杏南(木竜麻生)や恭子(杏子)に至る人選も全て良い。あえて本格派の手練れをキャスティングせず、MIYAVIや金田哲らをキャスティングした原田眞人のキャスティングの妙もことごとく功を奏す。淫靡なまでの夕景の中、肉体を悲劇に晒す男たちのカルトな病巣。そこに一線を引くような女どもの眼差しが胸を打つ。結果として岡田准一や坂口健太郎ファンには随分と過激な映画になったもののの、原田眞人のフィルモグラフィにおいては重要な作品となった。
netfilms

netfilms