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名探偵コナン ハロウィンの花嫁のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.6
 本当にこのシリーズは押し並べてレベルが高い。いわゆる刑事モノや探偵モノは日本だけではなく世界でも需要が少しずつ落ちているジャンルで、サスペンス映画でも刑事や探偵が出て来ない映画がいかに多いことか。そんな斜陽化待ったなしの状況の中で、名探偵コナンというブランドはこうして一時代を築き、今日もごく当たり前に江戸川コナンとその仲間たちが難事件を解決する。ミステリーには旬や波があるが、この名物シリーズは毎年GW前に公開されるため、ミステリー・ファンの期待に応え続けている。アニメではあるが決して子供騙しに非ず、大人のミステリー・ファンの鑑賞にも耐え得る堂々たる内容となっている。劇場版は江戸川コナン君とタッグを組む人物の組み合わせの妙を楽しむのが吉だが、今作は『ゼロの執行人』以来の安室透と風見裕也の登場となる。幕開けからいきなり始まる手に汗握るショッキングな攻防は劇映画顔負けで、コロナ禍の今は物理的に人を集めるのも厳しく、アニメの作画のようにゼロから描けることが逆にクリエイティブな物語やアクションを生むらしい。正直言っていま刑事モノや探偵モノをやるならば、劇映画よりもアニメの方がある種の制約を受けにくく、圧倒的に利があると言っていい。

 今作の舞台は渋谷で、ハロウィンの時期の物語であることは例外的だが、今作も波紋のように疑惑が拡がり、徐々に登場人物たちの行動やその意図が露わになる。その丁寧に積み重ねられた脚本の秀逸さは言うに及ばず、安室透の過去の警察学校時代の物語を下敷きにしながら、消えた刑事や花嫁の見た不吉な予兆で後半まで引っ張る脚本の上手さは十分に大人の鑑賞にも耐え得るものだ。アニメ・シリーズを観ているものからすれば少年探偵団の登場も喜ばしく、しかも今回はトリックの遠因にもなり得るので幾分出番多めだ。テロを想起させるエピソードがシリーズ中最も人気があるとは何とも香ばしい話だが、東京で生活するおよそ1200万人もの人々が犯人のターゲットになり得るもので、渋谷を舞台にした劇場版にはこれ程これ程相応しいものはない。然しながら感心したのは111分のうちの80分くらいまでで、その後の大味な展開はこれが『名探偵コナン』の劇場版だとわかっていても、それまでの地に足のついた丁寧な脚本からは思いっきり飛躍している点が残念だ。ハロウィンの仮装をした謎の人物が地下鉄線路内を歩くビジュアルは素晴らしかったが、そもそも液体爆弾をフィクションの中に導入するとしても、さすがにあの分かり易すぎるビジュアルはいかがなものなのか。と言いつつも前半80分は掛け値なしに面白く、本来ならば劇映画がやるべき領域に果敢に侵食しており、今回も素晴らしい成果を上げている。
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