人が終わる瞬間を描いた映画。平穏な日常に死が近づいてくるのを感じる恐ろしさを描いている。
細部までこだわり抜かれた徹底的なリアリティが凄い。舞台となる老夫婦の家の作り込みには、間違いなく人が長年住んでいたと思わせてくれる説得力がある。彼らの人生を感じられる素晴らしい舞台設定。
言動の説得力。無駄とも思える長尺の会話。監督の過去作でも思ったけれど、これが本当に上手い。物語の大筋には関係が無くとも、登場人物達の性格や関係性を的確に表現したシーンであり、見ていると物語に入り込んでしまう。認知症のお婆さんが老人ホームに入りたくないと語る姿を見てギョッとした。私の祖母も同じ事を言っていたらしい。この時、父(祖母の息子)は精神をやられていた。見る人が見たら気が滅入ってしまう再現度だろう。子供の行動も妙に説得力があった。神経を逆なでするような言動の数々。この人間の“嫌”なコミュニケーションを描くのが段違いで上手いと思う。
そんな本作は結局何だったのだろうか。自分は人生のあっけなさを伝えている映画だと思った。体は軋み、日常には悲しみが溢れ、思うように行くことがどんどん減ってくる。死に向かっていく中で何をするのか。何かを残すことができるのか。残酷で、儚い人生。ラストシーンでこのテーマをきちんと語っていたと思う。
この映画が凄いのは共感性の高さだと思う。誰もが感じた事のある死の怖さや人付き合いの煩わしさが痛い程伝わってくる。誰もが逃れられない人生の終わり。色んな事を考えては消えていく。老いる事は本当に恐ろしい。
