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VORTEX ヴォルテックスのsoloのネタバレレビュー・内容・結末

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ざっくり言えば老老介護の映画で、その夫婦の最後の日々を流すという。実は起承転結がはっきりしない、派手な展開はない、題材の都合もあってわりと淡々とした感じなのでザ・ノンフィクションみたくドキュメンタリーみたいな仕上がりになるかと思いきや"静かな地獄落ち"のサブタイに恥じぬ、鬱物語だったなぁと。
この夫婦は心臓病の旦那が作家、認知症の妻が元精神科医という、どちらかいうとブルジョア感ある夫婦で息子もおり孫もいる。冒頭部や写真から振り返る過去は美しく静かできれいな日常で、思い出もあるし愛情は今も続く。ふたりが過ごしてきて確かな過去が消えるわけないのに消えていく感じ。じゃあこの現実はなんなんだ感。現状に対する不安、焦燥感。確かに恐怖だ。しかもリアルで身近、自分にも起こり得る。ただ「地獄」というのはちょっと違うんじゃないか?基、不足ないんじゃないか?と、認知症の妻に振り回される旦那を最初みてて思ってたんだが…そんなことは…なかったんだぜぇ…。ギャー!という嫌さはないんだけどこう、じわじわと眉間にシワがよって来る。ずっと胸が苦しい。それは悲しいからではない。相手を不憫に思うからでもない。こんなに悲劇的なのに。どんなに死が近かろうと「死ぬかもしれない」という不安はこんなにどうしようもないものなのか。思いやりとか慈しみなんてもので蓋をできるものじゃないなと。
そしてふたりの最期。死んだら安らかにとはよく言うけれど、死に顔の説得力…安らかじゃないんよ。かと言って恐怖に歪んでるわけでもないけど地獄を生き抜いた後の顔とはこれかという感じでうわぁってなった。あと意外にもこの映画、お薬映画な部分がありまして…処方権を持った医者がボケるのこんなに怖いのかと思ったり。まぁそれも最終全然関係なくなるんだが。
あとあらすじを読むと息子、金を無心するというろくでなし感すごかったんだが…普通によい理性的な息子でおいおいなってましたわ。金を無心する理由も分かる、仕方ないやんそんな…ただついてる職業はろくでもなかったのはわろた。そんな息子に「高齢者住宅とか施設入りなよ」言われて「老人ホームなんか絶対にいかない!」って旦那がゴネるよくある下りもあるんだが…わかるんよ。双方言う事一理もニ理もあるんよ。またそれが全然罵り合いじゃなくてとても理性的な話し合いなんよ…なのになぜよ…なぜここが地獄なのか。そして画面はずっと静かであたしは眉間にしわ寄せるしかできない。
さいごに、地獄落ちというと私は認知症の妻の介護をする旦那のことかと思ってたんだが…いや確かに地獄やったが…違うなと。どんな状態でもひとりよりふたりのほうがまだよかったのだと思っちゃったわぁ…
地獄にいるととても長く苛まれているような気がするけれど実はとても短い時間なのかもしれない。
地獄にいる、ということその事自体が確実に死に向かっているということだから。"地獄で生き続ける"ということはないのだなぁ。でもそれは救いでもなんでもないのだなぁという謎な学びがあった。
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