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DAU. Katya Tanya(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

DAU. Katya Tanya(原題)(2020年製作の映画)
4.0
[二度失われた初恋について] 80点

1942年、当時16歳だったエカテリーナ"カーチャ"ウスピナは疎開先モスクワの叔父を頼って、彼が館長を勤める図書館で働き始める。そこは創設間もない研究所であり、彼女はそこで多くの恋を得ることになる。彼女の最初の恋は、カレージン指導下の学生アレクサンドル・エフィモフとのものだった。彼らは夜遅くまでチェスをするなど遊んで過ごし、空襲警戒用のライトが世界を気にしない二人の散歩を優しく包み込む。しかし、その他多くの同年代と同じく戦争に志願したエフィモフが帰ってくることはなかった。彼女はその後一生この失われた恋を引きずって、誰かに"恋"していることで自分を平常に保とうと奔走する。その全てが悲惨な結末を迎えると知ってか知らずか。復元/再現不可能な初恋という意味では『Three Days』に似ているが、本作品はより悲惨で救われない。

本作品の主な舞台は、これまでの作品が結集する1952年とその翌年である。この年はDAUユニバースを通じてほぼ全員の主要人物が研究所に揃っている珍しい年でもあり、『Natasha』に登場したフランス人化学者ビジェや『Nora Mother』に登場したノラの母親、『Brave People』に登場した髭ありローセフなど多くの人物を垣間見ることが出来る。DAUユニバースは個々の映画に視点人物を用意することで、一人の共通する人物を多角的な視点から観察することを目的としているように思え、その考えは本作品を観ても変わらない。例えば『Nora Mother』で、ノラはランダウへの恋に思い悩んでいたが、『Three Days』や本作品ではランダウに近寄る女性たちに極めて冷淡かつ攻撃的になり、それでもランダウのナンバーワンを取ろうとする女性として描かれる。ランダウ本人についても『Three Days』では子供のまま成長してしまった可哀想な人として描かれ、本作品では妻を交えて同じベッドで寝ようとするなど猟奇的な側面も見せつける(本当に添い寝だけでセックスまでには至ってないようだ)。このエピソードは象徴的で、どうしても好きな女と寝たいが面倒なノラの機嫌も取りたいランダウと、ランダウのナンバーワンを常に取りに行くノラの性格が表面化し、ランダウのありえない提案をノラが一瞬で了承し、カーチャが受け入れるか賭けまでしようと言い出すのだ。ただ、ユニバースとしてではなく単品として考えた場合、103分しかないのにそこまでランダウに割いて遊んでる余裕はなかったように思える。

エフィモフとの恋が失われてから10年が経ち、知的な女性に成長したカーチャの周りには、彼女との知的な会話を求めて女好きなおっさんたちが群がり始める。しかし、ただ物珍しさ(カーチャはこの前年に研究所に復帰している)に惹かれてセックスまで辿り着こうと躍起になるクズ親父たちとの恋愛は、エフィモフとの初恋を再現するには至らないどころか、その落差の悲惨さからカーチャを傷付け始め、同時に彼との実らぬ恋を希求することを止める。彼女の10年はあっけなく崩壊した。

続きはネタバレになるのでこちらから↓
https://note.com/knightofodessa/n/n50d3f7eec529
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