Jun潤

バブルのJun潤のレビュー・感想・評価

バブル(2022年製作の映画)
3.9
2022.05.17

今年は劇場アニメのインフレが激しい。
『進撃の巨人』荒木哲郎監督×『魔法少女まどか☆マギカ』虚淵玄脚本×『DEATH NOTE』小畑健キャラクターデザイン。
アニメーション制作は『進撃の巨人』第1〜3期のWIT STUDIO、主演キャストは志尊淳と、顔出しせずにYouTubeや TikTokでカバー歌唱の動画を投稿し、シングルデビューを果たしたシンガーソングライターのりりあ。が担当。

5年前、東京で起きた降泡現象と、東京タワーを中心とした謎の爆発。
それによって東京の街は崩壊し水に沈んだ。
そして現在、東京では行き場のない少年たちが東京バトルクールというパルクールで日々対決していた。
その中の1人、ヒビキは仲間の中で浮きながらも確かな技術力を持っており、かつて泡が降る時に聞いた不思議な歌に思いを馳せていた。
そんなある日、ヒビキはタワーからあの歌が聞こえ、誰も登ったことがないタワーの爆心地へと駆け上がる。
水の中に落ちてしまったヒビキは、水の底で謎の少女と出会う。
話すこともできず、人間らしい振る舞いもしていない彼女に仲間達も困惑するが、その身体能力から彼女を仲間に引き入れようと考え、世話係をヒビキに任命する。
ヒビキは彼女にウタと名付け、交流を深めていく。
日々激化する東京バトルクール、そしてウタの出現から不安定になる東京の重力。
崩壊していく日常の中で、少年と少女は何を想い、何を選択するのかー。

いただきました、ボーイミーツガールの良作アニメ。
疾走感のあるOPから脳汁がダダ漏れになり、簡潔でわかりやすい世界観説明と、アニメ造形マシマシなキャラクターたちによる掛け合いで下地はバッチリ出来上がっていました。

まずストーリーラインとしては現代版『人魚姫』という感じ。
そこにディストピアや居場所を求める少年たち、宇宙由来を匂わせる壮大な世界観などを加え、現代チックな作劇が印象的でした。
詳細な真実は作中で明らかにはなりませんでしたが、なんとなく妄想で補完すると地球を巻き込んだ壮絶な姉妹喧嘩だったのかなと。
解釈は人それぞれになると思うので、そこで評価が分かれそうな感じ。
今作ではヒビキ目線で描かれるSF世界観の青春ストーリーになっていましたが、製作陣的にはウタ目線にした、大切な人と地球の命運を天秤にかけた自己犠牲的で壮大なストーリーにもできたのかなという感じ。
大衆ウケするのは今作で描かれた方だと思いますし、僕の頭の中の二次創作の域で留めておきます。

そして演技について。
いわゆる歌い手さんを主役に据えていた割に、セリフも少なめで神秘的なキャラクターにもマッチしていましたし、今作の重要な要素の一つでもある「歌」というのにもハマっていた配役だったと想います。
志尊淳が演じるヒビキも、その過去に由来する不器用で未熟な人間性が、演者の顔もチラつかせながらよく演じられていたと想います。
広瀬アリスはマジで気付かんかった。

あとは作画ですね。
崩壊した東京というのはやはりアニメーション作品だからこそ描ける世界観だと想いますし、どれほどの意味を持っているのかはわからないけど、とりあえず荘厳に見えるゴリゴリの謎ブラックホールや泡の大群と、なんかよくわからないけどとりあえずSF感だけはモリモリに伝わってくる作画に仕上がっていました。

個人的に引っかかったのはパルクールシーンですかね。
人物の動きは申し分なかったのですが、如何せんカメラワークがあまりよろしくなかった。
キャラクターに合わせたわけでもなく一人称視点にしているでもない、遠目からや背中を追いかけるカットが主で、もう少し臨場感やスピード感、没入感を上げるキャラ視点のカメラワークにならなかったものかと。
パルクールという動きと魅せ方が必要不可欠になる題材なりに必要な作画は満たしていましたが、もう少し作品の完成度を底上げする可能性は秘めていたと思います。

とはいえテレビ地上波シリーズのないオリジナル長編アニメで、ここまでしっかり世界観とキャラクターを仕上げてくるのはなかなかないと思うので、アニメファンにとっては一見の価値アリな一作。
Jun潤

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