MasaichiYaguchi

ブライアン・ウィルソン/約束の旅路のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.8
アメリカのロックバンド「ザ・ビーチ・ボーイズ」の創設メンバーであるブライアン・ウィルソンに密着した初のドキュメンタリーは、副題の「約束の旅路(ロング・プロミスト・ロード)」という楽曲の歌詞そのままに、ブライアン・ウィルソンの輝かしい栄光の日々だけでなく、この天才が抱えていた悲しくも壮絶な真実と秘めた思いが描かれる。
夏になると、シーリゾートで「カリフォルニア・ガールズ」「サーフィン・USA」「ファン・ファン・ファン」「グッド・バイブレーション」「アイ・ゲット・アラウンド」等のサーフ・ポップが流れている印象がある「ザ・ビーチ・ボーイズ」だが、これら初期のブレイクの切っ掛けになったサーフィンや女の子を題材にした楽曲から軟弱さや軽いイメージを抱きがちだが、一方、音楽通の人々は、そのクリエイティブ性の高さに注目していたと思う。
私も2014年の「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」を観て、ザ・ビーチ・ボーイズの中心であり、優れた作曲家で音へのこだわりを持つサウンド・プロデューサーでもあり、心の奥底にある普遍の感情を歌にした詩人で、才能と名誉と財産だけでなく自由意志までも奪われそうになったブライアン・ウィルソンのことを初めて知った。
この2014年製作の映画を観て、「ザ・ビーチ・ボーイズ」のターニングポイントとなるアルバム「ペット・サウンズ」を聴いたが、この作品が発売当時、評判が芳しくなく売れなかったというのが信じられない程、素晴らしいアルバムだった。
このアルバムの不評から後、グループの支柱だったブライアン・ウィルソンを幻聴や精神疾患が苛む。
恰も坂道を転げ落ちるように人生は一転、離婚、薬漬けによるグループからの離脱、悪徳医師ユージン・ランディによる9年間の洗脳へと負の連鎖が続く。
救世主となる現在の伴侶メリンダによって“再発見”されると、酒と煙草と薬を断って活動を再開、元ローリング・ストーン誌の記者ジェイソン・ファインと出会うことになる。
このドキュメンタリーは、ジェイソン・ファインによるブライアンの軌跡を西海岸の縁の地を巡る車中のインタビューを中心に構成されている。
本作のブレント・ウィルソン監督は、当初、普通にインタビューを試みたらしいが、気難しくて軽々しく心を開くことのないブライアンには上手くいかず、気心の知れたジェイソン・ファインをインタビュアーに、プライベート空間である車中で“実現”したとのこと。
“レジェンド”として現役続行しているブライアンの今後の更なる音楽活動にエールを送りたくなります。