デッカー丼

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのデッカー丼のネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

年間100本以上見ている上で、間違いなく人生ベストでした。最高。本当に素晴らしい!ここまで全方面にぶちまけてる映画は今までに無い!5億点!!!!
個人的ベストな理由とアカデミー最有力と言われる理由、あとはあれ結局何だったのポイントを備忘の意味も兼ねて記します。

①キャスト
主演女優、助演男優、助演女優をSAG賞やロサンゼルス映画批評家協会賞で取ってます。これまでの賞レースの歴史として言わずもがな白人優位の歴史がありますが、近年有色人種の受賞が徐々に目立つようになってきました。一方アジア人での受賞はほとんどなく、劇中語られていたようなアメリカ移民の成功が難しい部分がこれにリンクします。例えばミシェルヨーはハリウッドの中でアジア人で最も成功した女優といえますが、主役を張った映画での受賞はほとんどなく。キーホイクアンもグーニーズやインディで天才子役で抜擢されるも、依頼仕事はほとんどなく俳優業から退くまでになった(映画NOPEでのスティーブユアンの子役がまさにそれ)。アジア人のチャンスがアメリカにおいて限りなく少ない事、別のチャンスがあったのでは?というような葛藤が、本作の演技をする上で本人達のリアルな思いと共に伝えられる点がリアリティが増し傑作であると言えます。

②Z世代の葛藤
ステファニースー演じるジョイは大学を中退しタトゥーを入れゲイであることを母親にカミングアウトするも全ての行いを全否定され無力感に苛まれる。結果として生まれる虚無主義(ニヒリズム)が悪の権化として、本作のヴィランになります。全部どうでも良いというマインドは昨今のZ世代にも共通するものがあると思っており、コロナや不景気などの急激な時代の変化に対し、希望も期待も抱けない等身大の若者像を見事演じてました。
ちなみに虚無のブラックホールとして存在する巨大なベーグルは全てを諦める死よりも恐ろしい象徴として存在しますが、実際にエブリシングベーグルというものがアメリカには存在します。ケシの実やひまわりの種など文字通り全部載せベーグルで、いわばめちゃくちゃでよく分からん混沌の象徴として面白いすり替えだと思います。

③インターネットミーム
本作はインターネットミームが多用されます。これがご年配やアメリカ文化に精通してないと響かないところだと思います。例えばグーグリーアイ(目玉シール)に関しては
2010年代くらいにネット上でグーグリーアイをつけると全てがおもろくなるみたいなミームがあり。あとはポメラニアンが武器になるシーンなんかは、ベイビースローイングという赤ちゃんとか可愛いものが燃えたり投げられたりしてるミームが流行りました(Sims4とか)。他にもミシェルヨーが小指カンフーを極めた時、相手を打破する音が大乱闘スマッシュブラザーズのバットでホームランするSEと同じだったりとか、orange fuzzを一気飲みするのはtiktokへのディスでしょう。

④名作映画のメタファー
本作はマルチバースお約束ということもあり過去の名作映画の引用が大量にあります。映画好きなら分かるところが分かるのでとても楽しめるかと。マトリックス、2001年宇宙の旅、花様年華、レミーのおいしいレストラン、グランドマスター、パプリカ、グリーンデステニーなど。他にも私ときどきレッサーパンダにメッセージ性は似てましたし、もちろんマーベルを追ってる人からすればマルチバースという概念はおろか、ガーディアンズのロケットみたいなアライグマがツボだったんじゃないでしょうか(しかもめちゃチープ)。

⑤アクション
カンフーアクションがメインで最近のアクション映画とは一線を画します。ダニエルズ監督達がいう様に昨今VFXが簡単に使える今、我々はあの手のアクションシーン(キャプテンアメリカやデンゼルワシントンのクールな戦い)が量産され見飽きてる節があります。マーベル自体も最近はあまりフェーズ4ほどのアクションシーンを入れてませんよね。そこで往年のカンフーアクションをあえて入れたらしく、そこが変わり種として良いアクセントになってました。しかもキーホイクアンはほとんどのアクションを自身でやってのけているらしいです!すごい!

⑥家族愛
Z世代の葛藤でも述べた通り、昔と違って色んな事を諦めたり期待しない悲しい時代になってしまっていると思います。でも一方でそれは親の世代でも同じ様にあり、ジョイの気持ちは母親も経験している為唯一の理解者となる。だからこそジョイの原動力であった全部どうでも良いという虚無主義が、最後エブリンの全部どうでも良いからただあなたを愛すという無償の愛に繋がるところは号泣どころ。
またジョイの言動は家族のためにせかせかと働く肝っ玉母ちゃん感がある一方で、ADHD気質なところがあります。だから必ずしも正しい事をしているとは言えないところもあり、そんな中で心優しく楽観的な夫ウェイモンドを全否定します。変化を受け入れず、他者のことを否定する事、それは結果的に自分自身を否定する事になります。LGBTQのような事に対し今まで異性愛者しか受け入れなかった事からの否定、男はこうあるべき、大人はこうあるべき、という様なトキシックマスキュリニティ、受け継がれた悪しき慣習から変化を受け付けないこと、それはより良い世界は産まずに虚無だけが残る最悪の未来が待ち望んでいる。ウェイモンドの語るビーカインド(親切でいてね)は、夫婦間だけでなく全世界に対して言える言葉となります。これは我々へのメッセージでしょう。
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