大島育宙

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの大島育宙のレビュー・感想・評価

3.2
とてつもなく面白いのはわかる。
現代的な母娘関係に泣けるのもわかる。
石のシーンでは泣きそうになった。
アジア人メインのど真ん中エンタメは熱い。

が、どうしても一定以上の味がしなかった。

面白さもわかる。それなりに興奮もする。
でも、どこか作り物すぎる。
マルチバースの自分の能力を降ろせるなら、
その場での戦いの緊急性は低い気がしてしまう。

映画という非効率な、それでいて歴史を信じる総合芸術においては、もっと、一つの時空間を固定する意地のような、粘り気がある映像を観たいのだ。時間の流れに抗い、とある空間での瞬間を、永遠にフィルムに焼き付ける、大それた意地の集積が映画であると思う。

マルチバース設定と現代の情報速度に追い立てられるようなスピーディな映像は目には面白い。でも、なんだかマーケティングやスピードに消費されるように、反比例して瞬間や場所への固着が薄まっていくのを感じだ。面白いはずなのに、濃密なのに、説明がつかないどこか空疎な映像を観ていて少し胸が苦しくなった。

一つの、目の前にある時空間を大事にできない設定は根源的に映画の存在意義とは対立するのではないだろうか。