巴里得撤

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの巴里得撤のレビュー・感想・評価

4.4
終始、手に汗握る展開で、涙あり笑いありという娯楽大作。

……なのだけど、テーマは重めで、「人間はあまりに小さく愚かだし、生きることは無意味だ」という「虚無」に飲み込まれないように生きるにはどうすればいいのかということ。

映画内では3つの答えが提示されている。
「親切であれ」
「楽天的であれ」
「自分の価値を信じて、自分らしく生きろ」
こう並べてみると月並みだし、哲学的と言うには卑近な印象を受ける。

同じことは、映画全体にも言える。テーマが「家族愛」や「夫婦愛」というフレーズに回収された途端に、安直でご都合主義な展開に思える。

確かに家族や夫婦の絆を描いてはいるのだけど、この映画の本質は主人公エヴリンの成長譚であり、彼女がニヒリズムに抗う姿を描いたものなのだった。

そもそも、娘のジョイは母の理解を得られないことに苛立ちを感じているけど、「虚無」に身を投じるほど深刻な状態ではない。。むしろ、人生を悔い日々フラストレーションを溜め、自暴自棄に陥りつつあったのは、ジョイではなくイヴリンだ。

もしかしたら、この映画はイヴリンの内的葛藤を視覚化したものかもしれない(そうじゃないと、辻褄が合わないこともあるし)。

ミッシェル・ヨーはイヴリンの感情の起伏をみごとに表現している。ヴァースごとのバラエティに富んだキャラクターを演じているのも楽しい。

期待以上の存在感を見せたのは、イヴリンの夫、ウェイモンドを演じたキー・ホイ・クァン。オスカー受賞もあるかも。
巴里得撤

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