SPNminaco

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのSPNminacoのレビュー・感想・評価

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もし邦題付けるなら『(ミシェル・ヨーの)一切合切ぜんぶまとめてかかってこい!』、もしくは『生命、宇宙、そして万物と確定申告についての究極の疑問の答え』かな。カオスにとっ散らかった映画だけど、すごくよくわかるしんどみだった。
ごちゃごちゃ書類まみれでアタフタしながら何もできていない(なので夫に任せてるけどそれでも混乱した)エヴリンは、「仕分けられない人」だ。たぶんあっちこっち思考が飛んでしまうから。ADHDといっていいかもしれない。そんなマルチタスク苦手人間なのに確定申告と父親、娘、夫婦問題の同時多発修羅場。エヴリンがしんどいのはもちろん、話すら聞いてもらえない夫ウェイモンドもしんどい。なかなか集中できないのを知ってるからこそ、ウェイモンドはああいう非常手段に出たんだろうな…。余裕がなさすぎて人を傷つけてしまうエヴリンと、ドアマットなウェイモンド、3:7くらいで感情移入して泣けてきた。
でも、開かれたマルチバースでは「何もできない分だけ何でもできる!」と逆転の発想。自分が集中できないなら相手(片付けるべき敵)の集中を削げばいいのだ!そうだったのか!コインランドリーもウェストポーチも犬もペンもバットも宇宙もぜんぶ回してしまえ。そこではベーグルの穴も裏返して、ギョロ目になる。虚無の空洞は瞳の黒点になる。上は下に敵意は優しさに、母は娘に娘は母に、失敗は成功に。できないことはできる余地があること。こんがらがって滅茶苦茶な人間にとって、なんと心強いことか。
とはいえ、もともと宇宙はカオス。現実逃避してもできないことはできないので、エヴリンには周囲の助けが必要だ。でも自分がマルチバースなんだと受け入れて、少しは周囲を見る余裕があれば何とかなる。ああ、領収書が仕分けられてスッキリ片付いた達成感よ。
死体がガスで海を進んだりしたダニエルズ監督作だけに、これもガキっぽくバカバカしい下ネタのアクションが満載だ。そこがちょっとクドいし、娘とのパートは中心に置くにはあんまり巧くいってない気がするので、もう少し削っても良かった(どうせ”アイム・ユア〜”が言いたかったんだろ!)。てか、母娘以外の話で充分面白く成り立つと思う。
しかし何より、ミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンがこれでもかと宇宙的ポテンシャルを開放したパフォーマンスに圧倒された。ヨーさんはこれまで(主にハリウッド映画で)観てきたのは何だったのかと思うほど。いや既に立派なキャリアだけど、それこそマルチな意味でこんなに懐深く凄かったのかと。カンフーやゴージャスなスターオーラやしっとり『花様年華』風で魅せつつ、でもパサパサに疲れ切った地味な中年姿が殆どで、エヴリンの混乱した演技にリアルな説得力があるもんだから驚いた。おかげでギャグになってない。
ウェイモンドの振り幅ギャップにはグッとくるし、貫禄のジェームズ・ホンも良かったなあ。またジェイミー・リー・カーティスに加えてハリー・シャムJr.、ジェニー・スレイド(酷い扱いだが)も出てきて嬉しかった。ソーセージと岩は大好き!
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