エス

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのエスのレビュー・感想・評価

5.0
今まで見た映画の中で一番泣いたし、一番自分の存在を感じたし、一番勇気を貰いました。

明日で鑑賞3回目となる今作、一アジア人として、一クィアとして、一家族が好きな人間として、一人生躓きまくってて生き辛いと感じている人間として、とてつもなくぶっ刺さりました。

真っ直ぐ生きてると傷つくことが多すぎる残酷な世の中で、体に心に刻まれる劣等感と自暴自棄になるまでの失望と空虚感の痛みの繰り返し、全てに疲れてしまえば投げ出したくもなる。何事にも無関心になるのは凄く楽で簡単で、だけどそれでは近くにある大切なものに気付けなくなってしまう。

そんな不安材料だらけの中、”自分を見失いそうな時ほど、思いやりを忘れないでいよう、みんなで手を取り合おう”、と真っ直ぐに伝えてくれる映画にスポットが当たることが、この世の中においてどれだけ尊いかは言葉に表しきれない。

心に傷がつくたび扉を閉め鍵をかけてしまう、二度と痛みを感じないよう。それを続けすぎてしまって、誰かを頼ることも年々難しくなってしまっている自分だけど、それでも希望という光が存在することを忘れちゃいけない、それを受け取るには歩み寄らなくてはいけないんだよ、という諭しをこの作品は想像もつかないようなカオスを纏って届けてくれて、同時にこんな自分の人生をも励ましてくれました。全身に血がまた通い始めるような感覚に浸れるのが大好きで、性善説を信じたい自分にとって教科書のような存在であり、ここで得たものをずっと忘れたくないなと心の底から感じています。今後何度ぶちのめされて疲れて冷たく凍りついてしまったとしても、その心を溶かし、何度も癒し、大切にすべきことに気付かせてくれると思う。

ここで描かれるジョイの苦しみが痛いほど近く感じたし、だからこそエブリンの奮闘を心から応援したくなり、どうか見捨てないでと心から願った。親が存在して初めて成り立つ子供という存在。選べないからこそ、傷つけ合っても尚、赦し合えるのか、心を通わせられるのか。決別してしまうのではなく。個を尊重するようになった世の中だからこそ、そこを描き抜くことにした覚悟は唯ならぬものではないよなと思う。ウェイモンドは本当に理想のパートナー像でもあり、自分が信じたい真の強さをまんま象徴している。ミシェルヨーを筆頭とした演者陣もダニエルズやクルーたちもこの映画に辿り着くまでのバックグラウンドが素敵だからこの作品はこんなにも純粋に輝いているんだろうなと、嘘偽りなく思える。
(んでジョブトゥパキのコスチュームはどれも本当に最高だしエブリンとのご対面シーンは永遠にかっこいいですマジでありがとう)

ベーグルをモチーフとしたニヒリズム。
責任というものを放棄したその理論に基づいた言動は、自分は勿論、他人の心をも引き裂いてしまう。全てをずたずたに傷つけてしまう。
それを防ぐのが少しの優しさと愛。ほんの少しだけでいい。それが共通認識だったらどんなに世界は輝くだろうか。このバース、この世界線で生きることしか出来ないからこそ、自分のこれからの選択たちには優しさを添え、誇りを持ちたいものです。

今作がアカデミー賞をかっさらっていった今日、自分のお母さんがこの作品を見たいと呟いていました。この作品はまだまだたくさんの人に希望をもたらすと思います。全人類見て欲しい。
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