トシオ88

テオレマ 4Kスキャン版のトシオ88のレビュー・感想・評価

テオレマ 4Kスキャン版(1968年製作の映画)
4.0
パゾリーニ監督による不条理劇。現代ミラノのブルジョア一家が謎の男の訪問と離脱により瓦解していく様を描く。100分足らずの映画だが、観るたびに脳内が刺激を受け更新されて、観た後もいつも暫く、様々な場面の解釈に頭を捻ってしまう🤔

主役のテレンス・スタンプ。中性的なカリスマ性はやはり当代随一。爽やかでありながら難解。何の説明もなく現れて、家を出た後の顛末もやはり何も語られない。監督は人の形で描いているけど、人ではないのだろう。
きっちりとした規律ある生活していた裕福なブルジョア一家が、彼が姿を消した後、富や名声、階級、そして性や常識もない世界に各々が放り出される、というか飛び込んでいく姿はまさに革命のビフォーアフターそのもの。当時のフランス🇫🇷を中心とした学生達の5月革命の影響をパゾリーニ監督流に描いたのか。
そして性の面でも、あたかも両性具有の生き物のように一家を蕩けさすテレンス・スタンプ。長男に示すフランシス・ベーコンのどこか滑稽でありながら、倒錯した性の画集。あんな画集を10代で見せられたら、どこかネジが歪んでしまうだろう。そして女性たち。妻、長女、家政婦…皆、典型的な役割から解放されて崩壊、いや再生か…この辺りの解釈も100遍以上可能な気がする。
妻役のシルヴァーナ・マンガーノ、16歳でミスローマに選ばれた美貌はもはや魔力。本当の貴族の末裔の長女役のアンヌ・ヴィアゼムスキーの微笑とタップダンス…。家政婦役のラウラ・ベッティ、彼女については「もう映画を観てください」としか言えないです。観客の想像力の遥か上にある監督の創造性。

1960年代の学生運動を中心とした世界的ムーブメントの影響が恐らくあると思う本作。世界的には革命は起きず、その後ヒッピー、フリーセックス、金融やPC、スマホ諸々のカルチャー革命を経て今に至るけど、何でもかんでもスマホを観て情報を得るようになったの今の時代に、本作のような柔軟で斬新な作品を創造できるのかなとふと思う。60年代、70年代の映画に惹かれるのは、まだ余り収益産業化されていない映画たちのプリミティブな創造の熱量の所為かもしれないなどと本作を久しぶりに鑑賞して思ってしまいました🎬😃
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