がーひー

すずめの戸締まりのがーひーのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
5.0
間違いなく2022年No.1!
個人的には今年は年始からスパイダーマンが個人的2022年1位だったが、こんなにも圧倒的に塗り替えられるとは思わなんだ。

9月に原作本を読んで、そのあとは冒頭映像とかCMなどの映像媒体を遮断してた。
何故なら自分の頭の中で描くヴィジュアルと新海ワールドの「答え合わせ」をしてみたかったから。
これは手前味噌だが、ほとんど想像通りだった。ただこれは何も自分の想像力を賛美するのではなく、こんな凡な自分でも頭の中でイメージできるほどの文章として原作本は伝えてくれていたのだという意味だ。
それでもその映像も自分の想像を全方位で上位互換したあの新海ワールドだった。

君の名は。で一気に日本中の脚光を浴びたあの作画は健在どころかCGの駆使も相まって輝きを増してた。

そして、ストーリー、展開も本で読んだ時よりもテンポ感が感じられるのに映画オリジナルのセリフやシーンが追加されてた。

また、これまでの新海作品のように過去作のチラ見せなどもあった。これは過去作のサントラまで聞き込んでる自分としてはクレジットを見るまでもなく速攻で分かった。

ただ過去作との大きな違いは、タイトルが画面一杯に映し出されるシーンの演出である。冒頭のシーンでは、ロードムービーらしくこれからの旅路に胸を躍らさずにはいられない高揚感を覚えた。
逆にラストシーンではそのタイトル通り、これで戸締まり=幕引きという達成感に似たものを感じた。

肝心な本編も無駄なシーンは一つもない。個人的には旅行で訪れたことのある場所が多く映し出され、それらが耽美に描かれており、余計にお得感があった。
ストーリーとしてはこの11年で新海監督がずっと描いてきた、描きたかった世界が一番濃く映し出されたもので、ここまでド直球で勝負してくるところに製作陣の本気を感じる。

自分自身は3.11を神奈川で経験し、家の中が少し散らかるくらいの経験であったが、この映画をここまで讃えることができるのは、それだけ3.11が当時物心をついた全ての日本人にとって凄絶な出来事であったということ。また、同時にこの作品が当時を生きた全ての人に届く作品になってるということ。

ただ自分には持ち合わせていない感性があと2つあると思う。それは3.11後に生まれた人の感性、或いはすずめと同じように当時大切な人やものを失った人の感性である。
前者にとっては3.11はおそらく教科書で習う事柄に過ぎないかもしれないが、この映画を観て何を想うのかがとても気になるところ。というか是非観てほしい。
後者には、安易にはこの作品を薦めることができない。ただ、もしもあの日以来抱えていたネガティブな感情を手段を問わずに乗り越えたい人、または既に乗り越えてきた人には是非勧めたい。おそらく想像を絶する感動を覚えるだろうと想う。

あの日以来、日本は地震や災害、厄病に見舞わることが多くなってる気がするが、それが風化していくスピードもまた増してる気がする。それは、僕たちが立ち直るのが早くなってきたからなのだろうか。おそらく答えは否だ。本当はそれとは逆に傷をどんどん抱え込んで、隠して、目を反らすようになっただけなのだろう。
そんな日本にとって、この映画は今を生きる全ての人へのアンサームービーにもなってると思う。
傷を抱えながら、どう生きていけばいいのか、どうやって乗り越えればいいのか。目を反らす前には誰しもが考えたことだろう。でも、この映画を観れば分かる。ここまで生きてきた道のりこそが、確約された己の強さであり、既に乗り越えられていたのだということを。

傷だらけの日本にとって今、ここまで必要な作品は稀有だろう。

だからこそ原作本を読んだ時に思った「星を追う子どもっぽい作品だな」などというだけの陳腐な感想は撤回させていただきたい。
がーひー

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