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生きる LIVINGのloomerのネタバレレビュー・内容・結末

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

激シブである。いぶし銀である。
人間の本質はその人が何を言ったかではなく何をしたかに表れると言うけれど、まさにそんな背中が語るムービー。

黒澤明版の「生きる」は未見だけど、黒澤版へのリスペクトなんだろうなと思われる場面がたくさんあった。黒澤版も観なくては。

まず映像の端正な美しさに目を奪われた。スタンダードサイズのようなクラシカルな画面のアスペクト比や、陰影を強調した構図がとても美しい。これは、生と死の対比であり、美しいロンドンの街並みと工事前の遊び場の汚さとの対比なんだろうか。

余命幾許もないと知った主人公が残り時間を楽しもうと美しい海辺に来てみたり、酒場を梯子して酔っ払ってみたり、盛り場に来てみたりするのだが、盛り場という生を象徴する場所から出た主人公が具合が悪くなり死の世界の淵を歩いて暗闇から戻ってくる場面がある。光と影で二分された主人公の顔を見て、その場にいた連れも観客の私たちも彼がまさに生と死の境界線に立っている人間であることを改めて思い知りハッとする。ここの生と死の対比の描写がまた美しい。生/死、光/陰、美しさ/醜さ、無関心/関心などなど、この映画ではいくつもの対比に溢れている。

この映画は何かを「言わない」「明かさない」ことが印象的な作品でもある。省略や余白も多い。息子夫婦にも病状を明かさないし、主人公と心の交流をした元同僚の女性も彼の秘密を息子には伝えない。公園建設の手柄の顛末がどうなったかも明かされない。語りすぎない。徹底してただ行動する、その背中を見せる主人公の美学が貫かれているのが良かった。

後に続く世代のためにできることをするのが残りの時間でするべきことだと気がついた主人公は、打ち上げ花火のラストスパートのように猛然と働く。かっこよかったな。打ち上げ花火が終わった、祭りのあとのこともお見通しかのような手紙も良かった。みんながみんな一つのことで変われるわけじゃなくて、誰か一人の胸の中に灯火をつけられればそれで十分なのだ。
わたしも後に続く世代のためにできることを少しずつでもやっていこうと思った。この映画もまた誰かの胸に灯火をつけていくんだろう。
しみじみ、いい映画を観たなと豊かな気持ちで帰った。
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