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東京2020オリンピック SIDE:Aのせっのレビュー・感想・評価

東京2020オリンピック SIDE:A(2022年製作の映画)
4.8
本来の日本らしさに立ち戻った柔道。

この映画は決して「コロナを乗り越え自国開催を完遂し、過去最多のメダルを獲得した日本」を賞賛する映画じゃない。他国を見て、もう一度日本という国を考え直す映画だった。

まず、日本のお家芸、柔道の、監督・コーチ・会長の言葉で競技パートが始まる。「目先の勝利か、人生の勝利か」と語る、その言葉が今作のテーマのように聞こえるけど、私はこの柔道がそのまま今の日本の象徴となって問題提起をしているように感じた。

この映画で紹介される選手たちは、国を追われた難民選手や出産を経験し母となって競技に挑む選手など、それぞれがそれぞれの事情や思いを持ってオリンピックの舞台に立つ。そこにはサポートしてくれる家族やコーチの姿も。負けた選手も買った選手もそれぞれが、自分の人生の1つを通り越した表情で去っていく。

その清々しさの反面、何ともいえぬ表情でかつての仲間を見守る元女子バスケットボール選手の大崎さんが印象的。日本女子バスケ界で初めて出産後に復帰した大崎さんも、第2子が生まれて「母として」家族と過ごすために引退することを決めたと話す。その一方で他の海外の女性選手は「母として」子供のためにオリンピックに立つ。

大崎さんの選択もまた、1つの正しい勇気ある選択だけど、日本バスケ初の快挙を見守りながら「自分ももしかしたらあの舞台に一緒に、」と思う気持ちも少しはあるのだろうなと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

そして柔道に戻り、監督率いるゴリゴリのスタッフ陣が戦略を練る姿が映される。監督の補佐がかつて井上監督と同じ階級で戦ったというエピソードや、ロンドンの雪辱を果たそうとする男たちの姿、それが急になんともジャンプっぽくて笑った。そうやってメダルラッシュとなった柔道だけど、ジェンダー平等に配慮した男女混合では敗退。

女子バスケのホーバス監督は「それぞれがルール(役割)を遂行するのが日本のチーム、アメリカにはそれがない」と言う。この映画は女子バスケがアメリカに敗退した場面と母親としての役割のためにコートを去った大崎さんの表情で終わる。

「本来の日本らしさを重視」した柔道をそのまま日本と考えると、大成功に終わったように見えて何か大事なものが欠けているように思える。

総じて面白かったんだけど確かにオリンピック記録映画と言われたら、ちょっと主張が強すぎるのかなとは思った。ドキュメンタリーだったらこの手法は当然なんだが、記録だからな〜。
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