Kaji

UNFRAMED/アンフレームドのKajiのレビュー・感想・評価

UNFRAMED/アンフレームド(2021年製作の映画)
3.6
精力的かつ意欲的にキャリアを積んでいる30代の俳優がメガホンをとった短編集。それぞれが脚本と監督を務める。

4編とも、情感のあわいや危うさをしっかりした演出で捉えていて、質感はそれぞれ違うけど人間観察力が発揮された作品だったと思う。
 目線というか、何を表現する作品なのかが明確で真似事感がなかった。
これから、裏方でも何かはじめそうな匂いがするんだけどそういえば韓国映画界で監督主演っていうスタイルあんまり聞かないかも。今後出てくるかも知れないと期待してしまう。
プロ育成の過程で分業化カルチャーが濃いのかもなと思ったり。

↓では1作ごとの感想
「学級委員長選挙」監督パクジョンミン
あるクラスでの不正選挙を題材にして人気取りの加熱、足の引っ張り合い。覆水盆に返らず。
音楽やキレのいい編集でスピード感もあり、パクジョンミンのセンスが炸裂していた。映像とテンポのリンクがジャームッシュやフィンチャー、チャゼルの映画好きなのかな。と。
実際の大統領選の様相を子供の世界に置き換えて皮肉って、ポピュリズム批判にもとれる内容で、映画の機能をよく分かった上で表現に起こしてあったので一番社会派だったんじゃないかな。チクッとする。主人公が見えてなかった自分の魅力に自信を持てたらいいな

「再放送」監督ソンソック
独居の叔母と売れない俳優の甥が親戚の結婚式に同伴する1日を描く。
家族の中での居づらさやちょっと「うっ」となる呵責を取り込んで、2人にしかわからない気持ちのパスを切り取り、共感力と感性が溢れる演出だった。
この尺でこの濃さを中和していく演出力やコンテ力を感じた。無駄がない。チャンリュルや是枝映画のような説明的なシーンを省いていきつつロードムービースタイルで描き、部屋→道中→寄り道→目的地→ラストと変わるので、ほんとに若干だけど演劇みたいな設計だったなと思う。

「バンディー蛍の子」監督チェヒソ
シングルマザーと娘、義理の母、亡き夫しか出てこないのに、彼らの半生を共にしたみたいな気持ちになる。目線が優しくて悲しみが悲しくなくなるまでを描いていて爽やかだった。川のないところに蛍はいるわけないけど、この話を聞かせたお父さんが素敵な人だったんだなと一撃でわかる驚異の脚本力。
娘バンディ役のパクソイに当てがきしたとのことだったが、お父さんに想いを馳せる少女が愛おしくてたまらなかった。


「ブルーハピネス」監督イジェフン
同棲中の彼女が夢を応援してくれたのに、投資に手を出しグラグラしちゃう男の話。
格差、お金の求め方、夢への未練、しっかりした彼女、、、、ともうアイター!って状況を描きつつしっかり社会への目線を入れて、手持ちカメラとか意外とエモいカメラワークを使っていた。イジェフンの経験値を感じた。
主演がチョンヘインでもう十八番な役がらで文句なしだけど、正直主演イジェフンでも行けたと思う。きっと自分の体験が入ってるんじゃないかと思うシーンがあって、正直な人だなと思った。



いやあ、楽しかったです。
なんというか、いわゆる商業映画的な演出を選んでいる人がいなくてみんなインディペンデントなマインドで取り組んでいて新鮮だった。
おそらく、「俳優だから」みたいな目を向けられるだろうことに意識的で「いやいや『監督』を真剣にやりました」と胸を張れるようブラッシュアップしたんだと思う。
安易なサクセスストーリーでは共感を呼ばないと感じているのか、どこかビターで日常からそう離れない題材から「アンフレームド」したのは、映画のフレームの中で役を生きた俳優たちにとって日常こそがアンフレームドな場所だと感じた発想なのかも知れない。
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