Kaji

人生は、美しいのKajiのレビュー・感想・評価

人生は、美しい(2022年製作の映画)
3.8
ミュージカル映画だとは知っていましたが、やはり突如始まる歌唱に面食らったオープニング。
でもすっかり映画に引き込まれました。

余命ではなくて、病状を知る夫が軸になるのかと思いきや。
 
 死ぬまでにしたことリストをしたためた妻の初恋の人を探す旅を始める夫婦。ロードムービーであり、韓国現代史を辿る旅であり、典型的な韓国の家族の家父長制へ「オンマの死」で一石投じるストーリー。
特筆すべきは、韓国での7・80年代の激動の中、歴史的なこと(特に民主化デモとIMF危機)の中で、その時分に適齢期であった2人が恋愛結婚した家族史的なドラマを重ねてあったところ。息子と娘はセウォル号事件の世代であるはず。

民主化デモに参加していた高等公務員試験に何度も落ちてる父の息子は、セウォル号事件の際、同世代が船の中沈んでいくのをニュースで見ているのです。
社会へ向けられる視点へのジェネレーションギャップがいかなるものか思いを馳せながら見るべき映画。


ミュージカル仕立てで「オンマの喪失」を軸にしていますが、その世代が感じ入った父と母のつとめ、公務員の父・専業主婦の母という背景は日本で見る限りわかりやすいと思いきやギャップがる側面だと思います。
しかしながら、韓国の現代史を知らずとも、「父」「母」に課された責任と、本人が望むもしくは消化できていない後悔を解消していく流れ、そこに注がれる視点の温かさには感じいります。

とても大きな社会的交点を体験した世代。伴侶の死が迫り大きな歴史的トピックのかけらであった人にも人生で大きなドラマがあったという視点の温かさが充満している映画でした。
Kaji

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