KnightsofOdessa

The Peach Thief(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Peach Thief(英題)(1964年製作の映画)
4.5
[ブルガリア、優しさと苦しみの仮面] 90点

大傑作。ブルガリアの散文作家エミリャン・スタネフの1948年に出版された同名作品の映画化作。舞台となるのは第一次世界大戦中のブルガリアの小都市である。そこには捕虜収容所があり、街の警備部隊は収容所の管理部隊も兼ねていた。リザは年老いた警備隊長の若い妻で、危険な街から離れた小高い丘の広い家に暮らしていた。ある日、裏庭にある桃の木から桃をくすねていたセルビア人捕虜イヴォに出会う。ブルガリアは戦争に負けるだろうとする冷静さはありながら、それを兵士にまで還元する力を持たず、女は戦争に関わるなとする年老いた夫はリザを虐げ続け、それを知るイヴォは彼女の凍った心を解きほぐしていく。愛のない人生と愛に盲目な人生のどちらを選択するかという古典的な物語だが、感情の蠢きを示す静と動を効果的に組み合わせた映像が際立ち、リザ演じるネヴェナ・コカノヴァ(Nevena Kokanova)の力強い目線には、イヴォの言う"優しさと苦しみの仮面"の奥にある彼女の孤独が刻み込まれている。桃の落下、チェス駒の落下、人形の落下が必然的にラストと結びつくのも良い。
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