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The Universal Theory(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Universal Theory(英題)(2023年製作の映画)
2.0
[多元宇宙から来た女に一目惚れした男] 40点

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。Timm Kröger長編二作目。作家ヨハネス・ライナートはスイスを舞台とするSF小説を発表した。しかし、本人はインタビューではそれが小説ではなく現実に起こったことだとしている。実際には何が起こったのか?物語は12年前に巻き戻る。学生だったヨハネスは指導教官シュトラーテン教授の下で博士論文を書いていた。テーマは万物の理論と多元宇宙について。スイスでの学会に行く道すがら、シュトラーテンはあの手この手で実証不可能なヨハネスの論文にケチを付ける。一方、途中で出会ったシュトラーテンの旧友ブルームバーグ教授は、ヨハネスの説を支持してシュトラーテンと対立する。1960年代という時代背景から、二人のベテラン物理学者シュトラーテンとブルームバーグはヴェルナー・ハイゼンベルク率いる"ウラン・クラブ"の一員だったという設定のようで、偶然にもこの前の日に観た『オッペンハイマー』と繋がってしまったわけだが、裏設定の匂わせ程度で終わってしまう。論文執筆は遅々として進まない中で、ヨハネスは謎めいたピアニストのカリンに出会うわけだが、ファムファタールという言及だけで残りの補完を観客に丸投げしているせいでどうも二人の関係性が魅力的に描かれておらず、ヨハネスと観客の間でカリンへの熱意に温度差が生まれてしまっている。おかげで、映画全体が魂の抜け落ちた空っぽな作品にすら見えてくる。1930-40年代のハリウッド・ノワールを下敷きにしたようなモノクロの映像も、技工に凝れば凝るほどに感情の欠落が浮かび上がってきてしまう。実際にあったことだと信じてもらうためにヨハネスは小説家に転向して多元宇宙説を広めようとし、結果的に小説が映画化されるというメタ展開を迎えるが、その映画がつまんなすぎて外世界と繋がるのを諦めたと語っていた。それすらメタ展開にしてるのかと思うと尚更サムい。
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